PM 23:53
「…」
ぽちぽちとスマホをいじりながら、ベッドの上にあがって座った。
隣の彼も同じようなことをしながら寝転がり、うーん、と伸びをした。
「しげちゃん、明日遅いの?」
『…ん?…んーそう、忘年会ある』
「そうなんだ。…昨日がなくて、今日も、明日も?」
『そー』
「…お腹大丈夫?」
『それなぁ(笑)』
ぽんぽん、とお腹に触れるとちょっと笑いながらそれを見た彼。
『…結衣ちゃんは?』
「ん?」
『体調、どうなん?変化ある?』
「おっきくなった」
『見てわかるもん』
「太った?とか言ってたのに?」
『ぷくぷくしたやろ、でも。ほっぺとかもさ、…え、でも普通になるって言うやん。順調ってことやろ?』
「順調に太ってきてます」
『それなら良し(笑)』
触ってもいい?と聞くのは何故か小声。
いいよ、と頷いて向き合う。
スマホを放って、両手で確かめるようにそっと触れてくる。
『…思ってたんやけどさ』
「うん」
『ワンピースみたいな部屋着で寒ないの?』
「…靴下履いてるから割とそんなに寒くないかも」
『あぁ、そうなんや』
念願のダブルベッドで一緒に寝るようになってから、前ほどの寒さは感じなくなった。
「このほうが、お手洗いとかも行きやすい」
『へー』
少しずつ膨らみ始めたお腹に微笑みながら触れる彼。
急に掴まれた腕を引かれ、戸惑っているとゆっくり壁側に移動させられる。
『今日は?』
「ん?」
『何してたん?敦子ママのとこ行った?』
「うん。今日はお昼過ぎまで仕込みの準備してたよ。明日は検診だから、なんて言われるかちょっとドキドキ」
『大丈夫やろ、何かあったら体調に出てるはずやん』
「でも、いいのか悪いのか自分だけの体じゃなくなってるから、わかんないなっていうのはある」
『そうか』
「うん」
座っている方が楽に感じるようになってきた。
少しずつ膨らむお腹。
「…でも、」
『ん?』
「しげちゃん明日飲み会で遅いんでしょ?」
『…まあ、もしかしたら今くらいになるかもな』
「…そっか*」
『なんか心配なことあったら、敦子さんとこ行ってさ、』
「…ちがうの」
『え?』
スマホの画面を彼に見せた。
「明日はひとり餃子パーティすることに決めた。」
『は!?(笑)』
「食べたい…今日食べちゃおうかなと思ったんだけど、ひとりだしって思って…でも、明日の夜より先は我慢できない!」
『えーなあ、オレも餃子食いたいねんけど』
「でも、居ないんじゃだめだよ」
『土曜日は?(笑)』
「…明日がいい、もうガマンできない」
『…え、エロ』
は?
『わー、餃子って聞いたら一気に餃子食いたくなってきた。』
「明日、ご飯屋さんで餃子頼んで食べなよ」
『結衣ちゃんのがええねん、オレあれ好き』
「…」
『アレやったら5000個食えるわ』
「そんなに作れない(笑)」
『(笑)』
なんでもない事がおかしいなんて、幸せだなって思う。
『5000個!』
わたしに向けて、パーにした手のひらを見せてくる。
『面倒くさなってきたなぁ、忘年会(笑)』
「だめだよ、行くって決めてきたんでしょ?」
『行くよ?行くけどさぁ…』
餃子ァ、と呟く彼の口元にのぞく犬歯。
「…いっぱい作っておいて、土曜日にも焼いてあげる」
『ほんまに?』
「うん、だから明日は行ってきてね。…5000個は無理だけど(笑)」
目を伏して、ふっと笑った彼。
「検診結果もLINEするね」
『あー、うん。また写真撮るの?』
「印刷してもらおうかなと思ってる。アルバムにするの」
『おお、すごいやん(笑)』
「…時間がある時にまとめておいてあげれば、見たくなった時に見やすいよなぁと思って」
『なるほどな?』
「…あ、」
『ん?』
思わず口をつぐむ。
「しげちゃん、お仕事忙しそうなのに…時間がある時になんて言ってごめんね、…大丈夫?疲れてない?」
『大丈夫(笑)ゆっくりしてくれてる方が嬉しいゆうか、安心する』
「…」
『逆にごめんね、まだ不安のある時期やのに』
「ううん(笑)つよいから大丈夫だよ」
『強いって(笑)なにそれ』
そうだ、
「…マッサージしてあげる」
『どこの?』
「…肩とか、腰とか?」
『えー(笑)そっか』
「なんで残念そうな顔してるの?」
『いやいや、やってくれるなら、どこでもやって欲しいです(笑)』
彼の背中に周り、両肩に手を置いた。
親指に力を入れて、強く優しく、力に緩急を付けながら押し、手を滑らせる。
『(笑)』
「…なに?」
『や、結衣ちゃん、手ぇちっちゃいなと思って(笑)』
急に肩を揺らした彼のつぶやきを聞いて、そうかな?と手を見た。
『どうしてもアカンなってなった時、マッサージ行ったことあんのよ。その時でっかいオッサンにゴリゴリ揉まれたからマッサージ、イコールそれやねん(笑)』
「気持ちよくない?」
『ちょうどええわ、オッサン痛かった』
「(笑)、プロなんだからそのおじさんも本気で良くしようとしてくれたはずだよ」
『わかってんねんけど、さすがにしぬかと思ったわ(笑)』
思い出し笑いをする彼のうなじを見つめながら、一緒に笑った。
「わたしもがんばるね…!」
ぎゅっと親指に力を込めて押そうとすれば、スルッと滑ってしまって焦った。
伸びた両腕を彼に掴まれて、プチパニックなところに彼の笑い声。
『結衣』
片腕だけ解放されて、彼が振り向き体勢を変えた。
「…なに、?」
『…』
片手で顎を掬い取られ、じっと見つめる視線がぶつかる。
『…』
「…!」
ちゅっと静かに鳴ったリップ音。
咄嗟に掴んでしまった彼の部屋着の袖。
それをチラッと見た彼が口角だけで微笑んで、また顔を近づける。
『…(笑)』
「…急にそういうことする」
『指、痛くない?大丈夫?』
「大丈夫だよ(笑)本当に頑丈なんだってば」
『鋼のように固い肩で申し訳ない(笑)』
会話の合間に何度も口付けられる。
彼の顔が近づいて、思わず口を閉じると、なんで?と笑うからずるい。
「…準備が要るから」
『またでた(笑)準備、』
もご、と語尾がごもるほど、語尾を待たずに触れる唇がもどかしい。
「…し、」
『…ん?』
おちょくるみたいないたずらっぽい笑顔にときめく。
たまらなくなって彼にぎゅっとしがみつくと、笑いながらそれを受け止めてくれる彼。
『…なに?(笑)』
「…」
黙ってしがみつき、胸に顔を埋める。
そこから彼を見上げると、目が会う度に優しい笑顔を向けられる。
「…なんか、」
『ん?』
「…嬉しい」
『…ん?』
「…寝る時にしげちゃんがいる」
『…それだけで?(笑)』
彼は呆れたように笑うけど、わたしにとってはとても大事なこと。
広いベッド、となりには彼にいて欲しい。
「…早く帰ってきなさい、明日も」
『はいはい(笑)わかりましたーっと』
この温もりに包まれながら眠る幸せを、今夜も。
***
2018.12.13