甘えていいよ。






呼吸が落ち着いてきた頃、眠くなってうとうとしていた視界が急に明るくなった。


「…!」

慌てておふとんを手繰り寄せ被った。



『…あ、ごめん。(笑)』




すっぽり被ったお布団の中から、目から上だけちょこっと出すわたしの前まで来て、何かとじゃれてそれをどかそうとする彼。




「…ちょっと」

『なんやねん』

「…やだ」

『なにが?(笑)』

「…」

『なぁ…もっかいシャワー浴びる?』

「明日の朝でいいかな…」

『そう?ほなぁ、オレもいっかなー』




最中と、終わったあとの彼のテンションに変わりようについていけないのは毎度のこと。


なんでそんなにってくらい、平気で歩き回る。





「…しげちゃん」

『ん?』

「…とって」

『なに?なにを?』

「…それ、」

『どれ?』

「ぱんつ!」

『パンツ!(笑)ちょっと待ってな探すから』

「ええぇ、困る、…こまる、バサバサしないで、」



恥ずかしくて、顔から火が出そう。


『ほい』

「…」





どさくさに紛れて掛け布団をまくろうとする彼からそれを死守しながら素早く身に付けた。

お布団のなかで見つけたキャミを着て、パーカーを羽織る。




背中から感じる視線は我慢して、ショートパンツにも足を通した。



『結衣』

「…ん?」

『ん』




飲みかけのペットボトルを渡される。



それを一口飲んで、彼の手から渡されたフタを閉めた。






『…おっきくなった気がする』

「え?」

『なってない?(笑)結衣ちゃんのおっぱい』


「…?!」



『わー!ちょっと待って、そういう体力は残ってない!枕投げは!修学旅行だけ!な!!!?』




そう言いつつ、わたしが投げた枕を片手でひょいと払い、ベッドに片足を上げる。


ギシッと揺れて彼が乗った後、わたしの手首を掴んで顔を近づけてきた。






「…」


チュッと軽く触れる唇。


『…』



それを何度も繰り返されて、その感覚も短くなっていく。




『…』

「…あの、」

『ん?』

「変わってないと思う…」





胸元に視線をやってから彼を見ると、嘘やん。と笑った。


『そうかな?(笑)もっかい触らして』




ぱち、とほっぺを叩くと大げさに痛いリアクションをして笑った彼。





「ほかの女の子と勘違いしてるの?」

『え、そういう空気になんの?(笑)絶対ないわそんなん、え?待って、ほんならやっぱもっかい触らせて』

「真面目な顔で何を言ってるの!?(笑)」




やだよ、だめ。と首を横に振る。




『でしょーねっ(笑)』




ギュッと抱きつかれて、受け止めながらその場にぺたんと座った。








『…っはぁああ*癒される*(笑)』

「…!」





今日は帰ってきた時から少し元気がないように見えた。

どこかカラ元気で、でも直接は触れてほしくないんだろうと思った。



彼の背中を抱きしめ返した手のひらでゆっくり撫でる。




『…』


もそもそ動く彼の吐息が耳の後ろに触れる。





『…結衣ちゃん』

「うん?」

『大好き』


「…(笑)急に言われても、何も出ないよ」


『…触らして!』


「今日はもうダメ(笑)」

『(笑)』




好きに身を任せる彼を、耳元で響く笑い声ごと抱きとめながら瞬きをする。

後頭部に触れてそっと撫でるとお、≠ニ小さく声を漏らした。




『…これ、好き』



「ん?」




『なぁ…もっとしてや』

「赤ちゃんみたいだよ、しげちゃん(笑)」

『ええよ今日はもう、赤ちゃんになる(笑)』




意味わかんない、とちょっと笑いながらも、お望み通りに髪を撫でてあげる。




『…女神…』


胸元に顔をうずめる真似をする彼。


「ちょっと、ダメだってば(笑)」


『あいあい、わかってますよぉーっだ(笑)』



「…」





抱きしめる腕を緩めた彼に、下から見上げるように見つめられて視線を落とすと、まだチュッと口付けられる。




『…』

少し見つめあっているうちに、ドサッと押し倒されたベッドの上で彼がわたしの服に手をかける。




『明日も頑張るために!』

「もうやだ」

『えー、ほんまに?』

「うん(笑)」





彼が自分のベッドから枕を持って戻ってきたベッドの上で、自分の枕を壁側にキュッと寄せた。


『詰めて*?』

「…このくらいで入れる?」

『…っしょ、…うん。大丈夫』





一緒に寝よ、と甘えられるのも悪くない。


タンクトップ姿でふとんを被ろうとした彼を止めて、パジャマを渡した。



「風邪ひく」




わたしも色違いのパジャマに着替えて、彼の隣に横になる。



『…』

「…」

『…めちゃめちゃ眠そうやん(笑)』

「…眠いよ?だって、さっきしげちゃんのほうにいる時から眠たくて、」


『…』




体力使うしね、という何も包み隠さない彼の呟きに顔が熱くなった。





「しげちゃんのせいなのに」

『あは、かわいい(笑)』





かわいい、と言われてますます恥ずかしくなった。



「…寝ないと」

『うん』




ごそごそ動き合うベッドの中で、彼の手に手が触れた時、どちらからともなくそれを重ねて握り合う。

彼の方を向く体勢に動くと、身体を寄せられて抱きしめ合う。




「…しげちゃん」

『…ん?』

「…夜ご飯、おいしかった?」

『ん?あぁ(笑)美味しかったよ。あれなんて言うん?キッチュやったっけ』

「キッシュ(笑)」



おしい、と笑うと彼も笑った。



「本当は朝ごはんとかに出したい」

『おいしかったな、あれ。また作って?』

「うん、つくるね」

『敦子さんに習ったん?』

「ううん、すみれさんに教えて貰った」

『へえー』



彼がわたしの頭に顎を載せるほど抱き込まれる。

彼の胸元に頬を寄せたりしながら、わたしもゆっくり瞬き。




頭の下を通る彼の腕の先、その手のひらがわたしの髪をそっと撫でる。



…あ、


『…慣れた?こっち』

「…うん、…そんなに難しいことないかな、…皆さんが優しくしてくれて、」

『よかった。…でも、何かあったら言うてな、オレ気づかんことあると思うし』


「…」


『寂しい思いさせたくないから』




瞬きが増えれば、わたしの髪を撫でる彼の手は感覚が長くなっていく。

彼のパジャマをキュッと握った。




「…大丈夫だよ、…毎日たのしいもん」

『…結衣ちゃん、』

「…しげちゃんこそ、」

『ん?』



「…分かっちゃうんだからね、わたし」

『…』

「…無理しちゃダメだよ。」



目を丸くしてわたしを見つめた後、力の抜けた顔でふにゃっと笑った。



『なんでもお見通しなわけやな』

「そういうことだ」

『なるほど?(笑)』


乾いた笑い声がベッドの中で響いた。



『本気でもっかいしたいって思ってることも、気付いてる?』



***
2018.12.12