他の誰かのものになんて
...
『はいはい、飲みすぎ。もーおしまい。』
○○の手からチューハイを取り上げるオレの手をぽ〜っとした目で追いながら、
頬を膨らませてご機嫌ななめ顔。
『ぷう〜っとしてもダメ』
「…」
ぷく、っと膨らんだ頬を片手でつまんで笑った。
...
「のーちゃ」
『のンちゃん。ね。』
「…」
お風呂に入れてから飲み始めるのは正解だった。
普段は大人の色っぽさがある彼女は、
お酒を飲むとこんな感じに可愛く仕上がってしまう。
メイクを落とすと年齢よりもあどけなさが垣間見えて、
加えてこの甘えんぼ顔はたまらないものがある。
だから、知ってる?
オレは○○と一緒の時、ほとんど飲まへんってこと。
「…のむ」
『ダメ。お酒好きやけど、強くはないやん。にしては、量飲みすぎやからね。』
膝を抱えて座り、伏せた顔をこちらに向けて、
なおも、ぷ〜っと頬を膨らませているのがめちゃくちゃ可愛い。
鼻をすすりながらじっと見つめている。
『お酒、好き?』
「…うんっ!」
『オレは?』
「…うんっ!」
『ん?(笑)オレのことは?』
「うんっ!」
『うん、やないやろ。オレのことは?』
「…うーん、…うんっ!」
えへへ、と顔を緩める○○の姿に内心はカメラを向けたいくらい高揚してる。
でも、ガマン。
『オレのことは好き?』
○○の髪を撫でながらじっと見つめる。
「すきっ」
『んー?誰を、どれくらい好き?』
「…のんちゃんのこと、いーっぱいすき!」
『……………』
落ち着け。
「…大好きのんちゃん。…のーんちゃぁん」
『………………』
自分で蒔いた種。
仕掛けた罠にまんまとハマり、落ちたような気分。
「…えへへ(笑)」
年上の彼女にえげつなく甘えられ、オレは。
至福のとき。
『…○○』
「ん〜?」
『いーーっぱい大好きなのんちゃんと何する?』
「…のんちゃんと、」
『うん』
「…ぎゅ〜ってするっ♪」
両手を広げてオレを待つ姿は最高に可愛くて、
『っあーーーーー生きてて良かったーーーーー!』
「きゃ〜っ(笑)」
思いっきり抱きしめて顔を肩に埋め、頬をすり寄せる。
耳元で○○の笑う声。
可愛い……
いつもは膝丈のタイトスカートにピシッとシャツと制服のベストを着て、
赤いリップに髪を結い上げてキリッとした目元。
そう、デパートコスメの売り場に似合うような。
…でも今は
トロンと垂れた目元にこの通りの甘えんぼ。
モコモコのルームウェアに包まれた天使…
シンプルにたまら、
「のんちゃん、」
『…ん?』
「……」
下唇を少し、キュッと噛んだ○○は至近距離でオレを見上げながら瞬きをする。
ふっくらと柔らかそうな唇を見てしまえば、無意識に喉の奥がゴクリと鳴った。
『……ん?』
でもここは、オレだって。オトコの余裕を見せたい。
「のんちゃん、」
『…何?』
「ねーねー、のんちゃ」
『…なんやねん、…言うてくれなわからんで?(笑)』
「…」
本当は分かってるし、オレもそれを心の底から望んでいる。
けど、
…やっぱり、
その唇が、
声が、
求めるのを聞いてからじゃないともったいない。
抱きしめたまま髪を撫でて、
「…いじわる」
そう言われたって、我慢我慢。
『言うてみてよ』
「…ちゅ、」
『…』
「…ちゅうして、望」
その両手はいつの間にかオレの背中に周り、Tシャツを緩く掴む。
回りきらずに少しだけ隙間を残してシャツを掴むその手は、
心なしかいつもより熱い気がした。
『…チュー?』
「うん、」
『どんな?』
「…どんな、…」
待ちわびて何度も目を閉じるのがかわいい。
「…どんなって、」
『うん、どんな?』
「…ちゅ、」
ちゅうはちゅうだよ、と恥ずかしそうに左右に視線を揺らした後、目を伏せた。
「…はやく〜っ」
『そんなにしたかったら、すれば?』
「…!?」
信じられない、とでも言うように目を開いて、それから頬を膨らませる。
「いじわる!」
『(笑)』
顎に手を添えて動かなくして、咄嗟の瞬間に唇を重ねる。
「…ん〜っ、」
『…(笑)』
腰を下ろして立てた膝のあいだに入り込むようにして、ペタンと座る○○。
唇が離れて一瞬でも目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。
「…{emj_ip_0169}」
ガバッと抱きつかれると、なんとも言えない幸福感。
『…』
余裕は何処
「…のんちゃん、」
『ん?』
胸に甘えるように抱きつく○○をあやすように抱きとめながら、耳を傾ける。
「今日のぶどうのお酒、なんかいつもよりふわ〜っとする。…ちがうの?」
『ん?』
「ふわふわする、」
『…いつもと同じやけど。なんか違った?』
「…ふわふわ、する、」
量を飲ませないため。
いつもより度数の強めなものを選んで、マグに注いだ。
仕事の疲れも相まってきっと相当ぐるぐる来てるかもしれへんけど、
こんなかわいい姿を見られるならこれはご褒美として受け止めてもええやんな?
『…いつもと一緒やて。』
背中をさすりながら、まだ、キスの余韻に浸る唇をぺろりと舐めた。
『……どうしたん?』
「…ん?」
『なんかあったんちゃうの?』
「…」
頑張ろう、きっと大丈夫、これは乗り越えられる試練、と
何でも背負って平気な顔を保とうとする○○のこと。
平日に飲みたいだなんて、珍しいから変やと思った。
何の気なしに耳を傾けるつもりが、直球で呟いてしまった。
「…ふっ、…うぅううう、ぇ、…のっ、ちゃ、」
『…!!』
えぐえぐ、と背中や肩を揺らしながら、
オレの胸でポロポロ涙をこぼす○○。
こんな姿を見たのは付き合って2年、今この瞬間が初めてで戸惑いの嵐。
…う、…しかし、めっっっちゃくちゃカワイイ…!!!
「…あのね、のんちゃ、あの、」
「…すき」
『…え、うん…ん??』
「…けっこんして、のんちゃん」
『…え、…けっ、こ』
「…のんちゃんとじゃないと、結婚しない!」
ぎゅうぅっと抱きしめられてバクバク音を立てる心臓は
思ったよりも単純すぎて自分でも参るほど。
「のんちゃんが!だいすき!!」
『わ、わーかったって!(笑)』
「…お見合いなんかしない、」
『……え?』
「…」
『何それ?なんの話?え?…お見合い、?』
「…、」
オレにしがみついたまま、ウトウトしだす○○。
ちょっと待って。
『…何それ?何それ○○、』
「…はやく、のんちゃ」
『…ホンマに言うてんの?』
「…他の人のお嫁さんになってもいいの、?」
、
や、無理。
『…』
眠ってしまった○○の隣に横になって、寝られずにいる。
お見合いって?
…マジで言ってんのかよ。
『…むりむりむりむり、』
形だけとはいえ○○にそんな話が来ている、
浮かれてられない現実に眠れなくなっている。
…無理。
何度考えても、無理。
『…オレの○○やのに、』
…よし。
-翌朝-
『結婚しよ、○○』
「…え?」
翌朝、食パンを齧りながら呟くオレに目を丸くした○○は黙り込む。
「…」
『オレとやったらするんでしょ?…だから、しよって。』
ひょこっと現れた他の誰かへ手放したくなんかないから、離さない。
『オレが幸せにするから、信じて付いてきてよ。』
***
request. 2018.05.08