とある休日の憂鬱



「…」




昼過ぎにある一件があってから、あきらは一切口をきいてくれません。

常にこちらに背を向け、振り向きもせず、ずっと膝を抱えたりクッションを抱きしめたり。

為す術なく話しかけずに居る事数時間、コンビニへも出られずに…







***


『どうした!?』



あきらの叫び声を聞いて部屋へ戻ると、ベッドの頭の方を向いて座り顔を隠しているあきら。

なんやねん、と近づこうとして目を見開いた。




「…これ、たかちゃんの?」

『…え?…あ、』

「…」

『えーっとぉ、どうしてこれはここにあるんかな?』

「……」





放られた数枚のディスク。


「たかちゃんのエッチ!!!!!」

『あきら、オレ知らんねんけど』

「嘘つき!だって、たかちゃんの枕の下にいっぱいあるのに、なんでたかちゃんが知らんの?!そんなことってある!?ドラマや漫画やないねんで!?!」


『…(笑)あきら落ち着い、』

「落ち着いてなんていられへん!沢山、…こんなに!!!!」

『流星か望のかもしれへんやん?』

「…たかちゃんこういう人が好きなん、」

『…だから!知らんって!オレは、知らんねん!ほんまに知らん!いたずらやって!』

「…イタズラするのが好みなん!?!」


『バッ、あきら、なにを言うてんねん!』

「あるもんだって、…これ、」

『あきら、』

「……っ!」

『…』



そのままあきらは静かに大号泣。



何故、



よりによってえげつない趣味のものばかり…




頭を抱えながらそれを全て回収し、適当な紙袋に詰めた。

文字通り、しくしく泣いて肩を揺らすあきら。



ちゃうねん。
ほんまに勘違いやねん。
オレのちゃうねん。



どんな言葉を呟いたって、今のあきらには何も伝わらんやろなと思うけど。



『…』

「…」



そろそろ、終わりにしたいな。

だってこの部屋には、ベッドはひとつしかない。




『…』


後ろにしゃがんで座り、肩に触れるか悩む。

顔を下に向けたままの背中を見ていると、ギュッと唇を噛むあの顔を思い出して居た堪れない気持ちになった。




『…あきら』

「…」




ぷいっとそっぽを向いてしまった。



…そうか。






『あきら、』

「…たかちゃんの?」

『…』

「…やっぱり、そうなんやね」

『違うって言っても信じてもらえへんのやったら、どう思われてもしゃあないわ』

「…」

『…』

「…、」


また泣いてる



『…いつまで泣くねん』

「面倒くさい?」




涙を流し震えた声でそう問われ、黙っていた。



「…いいもん、…も、」




少しの沈黙のあと、あきらが口を開く。



「…さっきの」

『…ん?』

「…たかちゃんのやないの?」

『…』

「たかちゃんも、あぁいうの見るん」

『……や、』

「#namr#、…たかちゃんはそういうの見やんと思ってた」

『…ゴメン、』







…見る時はそれなりに見る、



…というのは火に油と分かっていながら、ほかの言葉が見つからん。



こめかみを掻いた。







「…あきらのことなら、触ってもいいのに」

『……』




え、今、なんて?




「…たかちゃんは、ディスクの中のお姉さんが好きで、あきらのことはどうでもええんやね!」

『そ、そんなん言うてへんやろ!?』

「あきらなら、触ってええのに」

『…』

「…」






唇を尖らせつつオレの反応を待つ背中。








「たかちゃんのあほ」







論点は、いずこ






「…たかちゃん、」

『…あきら?』

「あきらのこと、好き?」

『…』

「たかちゃん、」

『…うん、うん。…もちろん』

「…」

『好きやで。大好き。』

「…」




時折、鼻をすすりながら涙を拭うあきら。



『…ビデオと、あきらは別やろ?関係ない。あきらの方が好きに決まってるやん』

「DVD、」

『ええやんけ』

「…」

『あきら?』

「…」




おもむろにパジャマのボタンに手をかける。



『…何して、』

「…触ってええよ、たかちゃん」

『違う違う(笑)そういうことやないやろ?これは、オレのやなくて、…あきら、』



手を止めると、しょんぼりした顔でオレを見た。




「…」

『…』

「…ホンマにたかちゃんのちゃうん」


『違う』

「……」

『…』




あきらが外したボタンをひとつずつしめてあげながら手元に感じるのは、それを見つめるあきらの視線。




『…はい、できた』

「…」

『…』





ギュッと抱きしめて、てのひらであきらの髪を大きく撫でた。




『…』


その頭に顎を置いて、ひとつ、ため息をつく。






『…ごめん、あきら』







「…ゆるさん」

『エッ』


「……んんんんっ!」





ポコポコと胸に何度もゆるくぶつかるあきらの手。




「たかちゃん」

『ん?』

「あほ」

『ごめん』

「…」

『あきらと、ビデオのコは違うって』

「DVDや」

『そうやけど(笑)最初はビデオやってん』


「聞いてへん!」

『ごめんごめん!ごめん!(笑)』



オレの胸元から顔を上げるあきら


『チューしよ、あきら』

「んや」

『なんで?』

「おこっとる」





何度もかわされ、顔を近づければ頬を両手で押さえつけられる。



『あきら』

「そんなんで、ゆるしてあげないからっ」

『オレのちゃうねんで?(笑)』

「たかちゃんのやなかったらこんな所にないもん」

『そうかもしれへんけどさ!?(笑)』


やっと捉えたおでこにキスをすると、伸ばした袖でそこを拭かれて笑った。



『あきら(笑)』

「いや」

『ごめん』

「……」

『あきら、ごめん。この通り。』

「…見るのは、ええけど」

『うん?』




「……構ってくれへんようになるのはいやや」




眉を下げてだんだん泣きそうな顔になるから、焦ってスエットの袖を伸ばす。



鼻をすすりだすあきらの顔を覗き込むと、頬を押し遠ざけられる。




「…たかちゃんのあほ」

『うん、ごめん』

「…あほ、あほっ!」

『ごめん、あきら』

「…」





ぐすっと肩を揺らして、オレの服をつかむ。






「…もも」

『ん?』

「…桃のゼリー食べたい」



『ゼリー?食べたいんか。買ってこようか?あきら』

「ううん、」

『ん?』

「…あきらも一緒に行く」



涙を拭ったあとの目元、パチパチと瞬きをしてオレを見た。




『よし、行こっか(笑)』


うん、と頷いて小さいコインケースを持ったあきら。

アウターを羽織らせ、着たタイミングでマフラーも手渡す。




「たかちゃん」

『ん?』

「…」



マフラーを返され戸惑う。



「…」


『おー(笑)そうきたか、よし』



首の後ろに真ん中をかけて、前で交差させ、背中の方に端を回す。


そのまま結んであげようと腕を伸ばすと、ギュッと抱きついてくるあきら。




「…」

『…よし、できた』

「…」





抱きつく腕を離すまいと少し抵抗を見せたあきら。





「…」




すん、と一息おいたあきら。



顔を上げたあきらと目が合い、ごめんと呟くと首を横に振った。




「…うん」

『…』



ホッとして、抱きしめ返す。



「…」


頬が触れ合って、離れ、再び視線がぶつかると、つま先立ちで背伸びをしたあきらが目を閉じた。







「あぁごめん、友達から貰ったやつ。でも興味なかったから置いてった」

『オレんちに置くなや!』

「だってはまちゃんそういうの好きそうやん」

『んなことないわ、大変やってんぞ!?』

「えへへーごめんねー(笑)」


電話の向こうで笑う流星に、すっかり肩を落とした夜。




***
2018.12.9