※主人公が今吉さんより歳が一つ下で後輩。若松と同じ歳。友達が少し登場。

『今吉先輩って他の部員よりみょうじに甘いよな』

私は、昨日部活の帰りに若松に言われたことを気にしていた⋯⋯

―これってもしかして今吉先輩って私のこと好きなんじゃ⋯―

そんなことがふと頭を思い浮かんだが、私は首をぶんぶん横に振って煩悩を打ち消した。うわあああ。ないないないない。絶対ない。最近、脳が恋愛モードだから都合の良い風に捉えてしまう。危ない。危ないっ。自分でブレーキをかけれて良かった。危うく愛の暴走機関車になるところだった。そう、多分、今吉先輩が私に優しいのは、マネやってる数少ない私に辞めてもらうのが困るから優しくしているだけだ……私は桃井ちゃんよりも桐皇高校バスケ部としてのマネ歴長いからそれで他の部員よりも甘いという風に見えてるだけ。ほら、それに、今吉先輩、好きでもない女に好かれるをリスク回避するタイプだと思う。あれは今吉先輩の中で惚れない程度に優しくしているつもりなのだ。今吉先輩は打算でしか優しくしないもの。だから、私は、期待しちゃダメなんだ……分かってる、分かっているけど、そう簡単に私のこの溢れる気持ちは止まらない。愛の暴走機関車、止めたきゃ、止めてみやがれ馬鹿野郎おおおお。私の暴走はこんなもんじゃあない。宇宙までこの勢いで走っちゃう。あ、それはさすがに誇張表現だ、ごめんなさい。

そもそも、期待するなって言われても……期待するようなことをする今吉先輩が悪いのだ。だって、この前、「キミ、これ好きやろ?」私が好物であるかぼちゃコロッケを買ってきてくれて、私に差し出してくれた。「他の子には買ってないから内緒やで」って口元に人差し指を当てる今吉先輩。とてもかっこよかった。後は、3年生の教室に部活の連絡事項を伝えに行く時「わざわざありがとな」って軽くだが、頭を撫でてくれた。

あーもう、これは……恋ではなく故意。私のこと好きだ。うん、きっとそうに違いない。証拠不十分で不起訴処分だなんてのは認めない。証拠はもっとあるのだ。だから、この愛の暴走機関車に乗った勢いで打ってしまおう。

『ねぇ、今吉先輩が他の部員よりも私に甘いって、昨日、若松に言われちゃってさぁ、どう思う???脈あると思う???』

文字を打ち終わると、何だか熱が冷めてしまった……あるわけないか。私はパカッと携帯を閉じた。もー、若松が来るの遅いから色々考えちゃうじゃん。早く来てよ。体育館の壁にもたれなから、若松を待つが、一向に来ない……そうだ。まだ練習に打ち込んでいて、来ないみたいだし、その間にこのメールを削除してしまおう。携帯を私は開いた。

―ああ、本当私って馬鹿だよね。恋愛脳乙―

そう、私が削除のボタンを押そうとした瞬間、耳元で声がした。










「……え、脈あるのに消すん????」





「?!!!!!!!」
私の手から携帯が滑り落ちた。体育館の床に落ちそうになる携帯。今吉先輩が落ちる寸前でキャッチしてくれたから、携帯は無事だったけど、今それどころじゃない。え、そもそもいつから私の傍に居たの???ゾワッと背中に寒気を感じた。

「若松。買い出しワシが代わりに行ってくるわ。後、ちょっと買うモン多いから時間かかるかもしれんって部員に言っといてくれるか??」
「うっす」
当然のように今吉先輩は若松に指示を出した。
「ほな、行こか。ああ、せや。これ……落とさんくて良かったやん」

今吉先輩にそう携帯を渡されて、私は恐る恐る受け取った。あれ?確か、私、若松を買い出しに誘ったよね??何で今吉先輩と一緒に行くことになっているんだ??あと、買う物多いって……私そんなこと一言も……




ガチで私は焦った。




「あー、キャプテンが抜けるのはやめた方がいいんじゃないでしょうか。指示する人が抜けるのは良くないですよ。買い出しは後輩に任せとくべきです。若松とか若松とか若松とか……そうだ、若松、さっき練習に戻ったけど呼び返しましょうよ」

あちらこちらに目を泳がせながら言うと、今吉先輩は悲しげな声で言った。

「みょうじひどい子やなぁ。メールのは嘘で、本当は若松のこと好きやったん?」
「……」

そういうわけじゃ……

「じゃあ、諏佐もおるし、ええやんけ。この後のことは買い物ん時たっぷり話そなぁ???」

そう肩に手を置かれ、携帯を持つ手が震えた。あれ???私の好きな人って結構やばい人なんじゃ……


***
『脈あるんじゃない???ファイト!!!!』

部活が終わってから、何故か送れていた友達のメールに気付き、私はその返事を送った。

『結局、先輩と付き合うことになったんだけど、あの、想像以上にやばい人でさ』
『え、良かったじゃん。てか想像以上にやばい人って何???それと部活中何かあったの???』

私は打ち込もうとしたけど、なんていうかその……知らぬが花という言葉を思い出し、打つのをやめた。

『言えない、おやすみ』
『ちょっと、なまえ。返事してよ。
夜はまだ終わってないでしょ』

これで良かったんだ……多分。おやすみ、世界。パチンと私は部屋の電気を消し、眠りについた。
(おわり)