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鏡の前に立ち、短すぎるスカートの裾を少し持ち上げる。普通に歩くだけで下着が見えそうなスカートに嫌気がさすが、これも生きていくためだと自分に言い聞かせ、気を入れ直すために両頬を軽く叩く。
抜け出せない沼にずぶずぶと浸かり、抜け出す気さえ起こさず、香りの強い香水を首元に吹きかける。

今日も無事に帰ってこられますように。

届くとも思っていない祈りを捧げ、高いヒールをコツンと鳴らす。

目眩を起こしそうなくらい煌びやかな会場で、シャンパンの入ったグラスを手に持ちターゲットの姿を探す。少し不安げな表情を作れば、ぱちりとある男と目が合った。
男は周りにいた人に 一言二言声をかけると、こちらへと歩み寄ってきた。。柔らかく微笑んだ表情が印象的な好青年と言えるだろう。
「どうかしましたか?」
そう声をかけてきた男に、眉を下げたまま不格好な笑みを作る。
「いえ、大したことではないので…」
「なにかお困りなのでしょう?私でよろしければ、貴女のお力になりたいのですが」
その言葉を聞いて、少し表情を崩す。
ああ、今日は早く帰れそう。


イヤリングを無くしてしまった。そう男に伝えれば、男は親身になって私の話を聞いてくれた。その間、身体中を舐め回すような視線が不快だったのはいつもの事。そういう風に見られるように振舞ったんだ、かかってくれないと困る。

「本当にすみません。わざわざこんな事を…」
「いえ、困っている女性を助けないなんて、男の風上にもおけませんから」

あてがわれていたホテルの一室で、男に背を向けながらイヤリングを探すフリをする。
胸元に隠していた特性の注射器を取り出し、カプセルに入った液体をセットして再び胸元へと隠す。後は男がイヤリングを見つけるのを少し待つだけ。
あっ、と男が声を上げる。それに合わせて振り返り、息を吐く。ドクドクとなる心臓を抑えて、笑顔で振り向いた男に目を合わせた。

「ありましたよ!」
「あぁ…良かった…ありがとうございます!」

男の手と一緒にイヤリングを握りしめ、そっと1歩近づいて男の顔を見上げる。小さく男の喉が鳴る音が聞こえ、目を細めて笑う。

「ほんとうに…ありがとうございます…」
「っ…いえ、大したことは」
「なにか、お礼をさせてください。私にできること…」
「お礼なんて…」

男の顔から視線を逸らし、ベッドを見てから男の手を見る。ゴツゴツした手の甲をするりと撫で、光を反射してキラキラと光るイヤリングに目を細める。
耳元で鳴っているようにも聞こえる心臓の音がうるさい。
ゆっくりと男の手を引き、ベッドの端へ座らせる。男の目線に合わせて腰をまげ、見せつけるように髪を耳にかけて、男の腿を撫でる。

「つけて」
「…ああ」

男の手が耳に触れ、寒気にも似た感覚が身体中をかける。耳たぶにイヤリングの重みを感じ、いつの間にか閉じていた目を開く。欲を孕んだ男の視線に、はっ、と息を吐く。頬に触れる男の体温が気持ち悪くて、男の肩を強く押した。
抵抗もなくベッドに沈んだ男の股に、腰を下ろし、少し硬くなっているそれを下着越しに感じる。不快感に思わず顔を顰めそうになるが、ぐっと堪え、ベッドに投げ出された男の手を取り、自身の背中に回す。

「脱がせて、くれますか」
「意外に、積極的なんだね」
「貴方の前だけ、と言ったら信じてくれますか?」
「ふふ、それはやめておこうかな」

ゆっくりと脱がされていくドレスに、露わになる胸元を両腕で隠す。羞恥に頬が赤く染まる。この恥が演技であればどれほど良かったか、と何度も思う。
見上げられる視線が気持ち悪くて、不快で。下着越しに触れる体温に鳥肌が立つ。
気持ち悪い。
脱がされたドレスがベッドの下へと落ちていき、男の手が素肌に触れる。
どろりと何かが落ちた感覚がした。


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