初夜の朝(藤白)

噎せ返るほど充満していた性の匂いは跡形もなくなくなっている。乱れに乱れた布団も濡れたシーツも新しいのに変えられ事後だと分かるのはまだ布団で寝ている裸の少女─心陽を見れば一目瞭然。昨夜気を失うように眠った心陽を見て樹は黙々と後片付けをした。寝る前に樹自身は先に風呂も済ませている。
今は朝の9時。一足先に起きた樹は隣で眠る心陽の頭を撫でて着替え始めた。

「んっ……」

寝起きの少し枯れた声を出して心陽は目を覚ました。焦点の定まっていない目をきょろきょろとさ迷わせて何かを探している。目的の人物を見つけたのか心陽は起き上がろうとした。

「っ!?」

腰に鈍い重みを感じて布団に倒れ込む。その様子を見ていた樹は思わず吹き出した。心陽に背を向けるようにしてベッドに座る。

「おはよう、心陽。体辛いだろうしそのままでいるといい。服は手の届くところに置いてあるから、なにか飲み物でも取ってくるよ」

そう言って部屋を出ていこうとする樹を白夢は背中の引っかかれた傷を見て止めた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。まさかその格好で行くんですか!?」

心陽が言わんとしてることを知っている樹はからかうように笑みを浮かべた。

「あぁ、背中の傷か。昨夜あんなにしがみついてくるなんて可愛いことするから見せびらかそうと思って」

心陽の頭に昨夜の光景が思い出される。自分の声とは思えないほど甘い嬌声にいやらしい水の音。今目の前にいる男の背中の傷。心陽は湯気でも出そうなほど顔を赤くして布団の中に潜る。不意にベッドが軋む音と共に心陽の頭の後ろに手が置かれた。布団を剥ぐこともなく樹は心陽の耳元で低く囁いく。

「いつまでもそんな格好していたら襲うぞ」

反射的に反論しようと布団から出た心陽が見たのは服を着て部屋から出ていく樹だった。不意打ちの発言にまだ心臓が高鳴っている。心陽は自分の体に付けられた痕を見ないように膝を抱えた。腰の痛みなんてそっちのけ赤くなっているなんて自覚しながらいまだに慣れない彼の名前を呟きながら心陽は愚痴る。

「樹…さんはいじわるです」

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