墓参り

世界の色を消すかのように灰色のフィルターがかかった空。
日の輝きは淡く冷たい風がふく冬の昼下がり。
潮風が吹く海沿いの霊園の高台にその男は居た。
海が見えるように配置されたベンチに腰掛けただ海を眺める。

「お隣、ご一緒しても?」

黒のワンピースを着た金髪の少女が声をかけた。
最後に見た時より幾分か背が伸び、腰まであったはずの髪は肩にまで短くなっている。心なしか顔が少し大人っぽくなっているようだ。

「どうぞ、マドモアゼル。」

少女は軽く会釈し適度な距離をあけて座る。
少女は海を眺めながら口を開いた。

「貴方とこんな所で会うなんて明日は雨かしら?」
「それは困りますね。明日は大事な仕事がありますから。」

男は笑って答える。
しばしの静寂。
波の音も風の音も全てが遠くに聞こえる。

「なぜここにいるのか、聞いても?」

少女がおそるおそると言った感じで口を開いた。

「……ただの墓参りですよ。」
「貴方が墓参りなんて、世も末ですね。」
「言うようになりましたね、小娘が。」

顔を引き攣らせながら返すと「冗談です」と笑って返ってきた。

「その人は貴方の大切な人ですか?」
「何故そう思うんです?」
「質問に質問で返さないでください。
何となくですよ。ただ何となく、そう思っただけです。」

男は何かを思い出すように目を閉じる。
しばらくして男は目を開け口を開いた。

「友人です。」

少女は驚きのあまり口を開け目を丸くした。ここでようやく少女は男の顔を見る。

「まぁ、貴方にも友だちいたんですね。」
「さっきから随分失礼ですね。」
「ふふ、ごめんなさい。あまりにも意外な答えでしたので。」
「貴方の失礼さは今に始まったことじゃないので別にいいですけど。」

男は呆れたと言わんばかりに、肩をすくめ大げさに表現する
少女は男から視線を外し俯く。

「良き友人でしたか?」
「えぇ、とても。」

男は淡々と語る。

「彼とは年は違えど同期でしてね。何かと仕事で一緒になる事が多かったんです。あぁ、飲みに行くことも多かったですね。仕事熱心で部下思いなやつで、私に対しても何かととやかく言ってきましてね。周りからはお母さんなどとと呼ばれて親しまれていました。その分、悲しむ人もいましたが……。

やれやれ、なぜあなたが泣いているんです?」

男は少女の頬に手を添えて涙を拭う。

「泣けない貴方のために泣いてあげてるんですよ」

少女は目に涙をためながら笑って答える。

「貴方はほんと馬鹿ですね」

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