料理教室の先生

いつもは大学で講義をしたり、研究論文を作ったりしている大心だが、今日は臨床心理士としての仕事が入っていた。
仕事場は風間トキヤのいる病院だった。

「ど、どうされました?」
相変わらずの吃りで依頼人に尋ねる。

「……あの、その…。」
依頼人はモゴモゴと口ごもっていた。

「落ち着いてでいいですよ〜、ぼ、僕も人と接する仕事してるというのにすぐ緊張するタイプで、こ、こうやって吃っちゃうんですよね…なかなか治らないんですよ〜(汗)」
大心は頭をかきながら微笑んだ。


少ししてから、深呼吸をして依頼人は話し始めた。

「私は、…その…一応、料理教室の先生をしていて…。いつも、料理を上手く作りたいと思っている人や簡単に作れる料理を教えてほしいと思っている人達と一緒に作って教えたりしています…。」
依頼人は少し俯きながら話していた。

「なるほど…。料理ができるなんて凄いですね!ましてや先生だなんて…!ぼ、僕なんて材料用意するところから戸惑ったりして、砂糖使うのに塩用意してたりとかありました……。はっ!すみません、僕の話はどうでもいいですね(笑)続きをどうぞ。」
依頼人は大心の話に少しクスッと笑ったが、またすぐに俯き加減になって話し始めた。

「料理を作るのは好きですし楽しいですから先生になって良かったとは思ってたんです。……ですが、この前のレッスンの時に卵焼きを作るのがあったんです。でもどうしても巻いたり形を整える系のものを作る時に緊張して上手く作れないんです…。歪な卵焼きになってしまうんです……。先生なのに……教える側なのに……。生徒の皆に笑われて……。『先生のくせに卵焼きを綺麗に作れないの?この料理教室ダメだな。』って……。」

「緊張で上手く作れない…ですか…。料理を教えるとなった場合、確か…資格取得試験がありますよね?」

「はい。その時は自分との戦いでしたし、緊張もそんなにせずにできたんですが…。やっぱり生徒がいる場合はどうしても…」

「その歪な卵焼きって味はどうなんですか?」

「味は普通に美味しいんです……けど…。」

「…けど?」

「……。あなたは料理得意じゃないとおっしゃいましたよね?不器用なんですよね?」

「は、はい…。」
少しズキッとくる言葉だと大心は思った。

「……。私が相談して馬鹿でした。」
依頼人はため息をついて帰ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!その卵焼き美味しいんですよね!?形が上手いこといかなくても、食べものは美味しくてこそですよ!ぼ、僕不器用だからこそ気持ちわかります。」
大心は慌てて帰ろうとする依頼人を止めようとしたが、

「皆そうやって言うんですよ……。そんな励ましなんていりません!不器用な人に同情されたくないです。誰もわからないんですよ、私の気持ちなんて!」
と言って依頼人は立ち去っていった。

「……。皆がそう言う…。同情…。生徒がいると緊張…。ん〜、これは過去に失敗した経験があり、それを掘り返すように今回の件がありトラウマ状態になってる感じだなぁ…。いつも普通にできていたものが、あることをきっかけに恐怖になり自分にはできないと思い込んでしまって避けてしまっているか…。どうしたらいいものか…」
大心はブツブツ独り言を言いながら考え込んでいた。




〜数週間後〜
「あ、あの…」
この前の依頼人が病院に来た。

「この前は勝手に自分でイライラして帰ってしまって申し訳ありませんでした…。こっちが依頼してるっていうのに、こっちから断って…。」
しょんぼりしながらそう言った。まだ依頼人の悩みは解決してるようではない表情だった。

しかし依頼人が来たのはいいものの、肝心な大心がいないのである。今日は大学で用事があるらしい。

「あ〜、ごめんなさいね。あなたの診断をしてた人は大学の方で仕事があるみたいで、今日は来てないんですよ。」
代わりに依頼人と話す風間トキヤ。

「そうですか……。じゃあ帰りま」
と言って依頼人が帰ろうとした時、

「あ!そうそう!忘れるところだった!ちょっと待ってください。彼から『依頼人がもし今日来たら渡して下さい』って預かってた物があるんですよ〜。」
と風間トキヤは机に置いてた小さめのお弁当箱を持ってきた。

「なんですか?これ…」
と不思議そうに渡されたお弁当を眺める。

「開けてみてください!」
と風間トキヤが言い、言われた通りに依頼人はお弁当のふたを開けると、その中にはとても綺麗に巻いてある卵焼きが入っていた。

「…!!!!!これ、どうしたんですか!?とても綺麗に作ってある…」
依頼人は驚き目を見開いていた。

「それね、あの不器用な彼が作った卵焼きなんですよ。彼、何も考えてないふうに見えて依頼人のこととても考える人で。あなたが数週間前に依頼しに来てから、毎日毎日卵焼きを作る練習してたんですよ。毎日作って、『今日も失敗だ〜』とか言いながら持ってきて、自分で食べたり僕達も貰ったり。最初は食べ物とは思えない味だったりしたんですけどね(笑)
彼にはあなた以外にも依頼人が何人かと、病院と大学での仕事を掛け持ちをしてますし、忙しいから『この前の依頼人来るかわからないし、来てからでいいんじゃないの?』って言ったんだけどね…。」
と風間トキヤがカルテや医療の本をチェックしながら言った。

「でも、どうしてこんな卵焼きを…?あの人不器用だったんですよね?」
頭にハテナが飛び交う依頼人。

「確かに彼は不器用さ、超がつくほど(笑)
でも今日の出来はすごい良かったんだよね。きっと今日は依頼人が来てくれると感じたのかも。彼もたくさんの人に不器用って言われてるし、きっとコンプレックスだったと思う。でも、『不器用で全然できない人でも、コツコツ毎日頑張ればできるようになってくる』ってことを伝えたかったんじゃないですかね〜?毎日少しずつでいいんです。」
とニッコリ笑顔で話した風間トキヤ。

「私は自分で頑張ろうともせずに避け続けていたんですね。できることはできる、できないことはできないと決めつけてしまってたんですね。」
自分の今までをふり返り、依頼人は我に返る。

「無理にいきなりできようとしなくていいんです。少しずつ慣れていこうとするのがいいと思いますよ!僕は患者を診察して薬を出したりすることはできますが、あなたの場合は薬なんていりません。自分で気付けたんですからね!彼はそれをサポートする仕事なのできっと喜ぶでしょう。また悩みや問題があれば気軽に相談しに来て下さい。」
満面の笑みの風間トキヤにつられて依頼人は笑顔になった。


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