第1話
「とりあえず、警察へ行ってみますので
私、ミョウジナマエのことを話しましょう。
年齢は23歳。日本のとある地方都市に生まれ、平凡な家庭ですくすくと育って小中高と順調に人生を歩んできました。
大学進学を考えていた高校2年生のときに両親が事故で亡くなり、親戚をたらいまわしにあって高校を出てから小さな会社に入社して、そのまま現在まで事務をやっていました。
今日も仕事をこなして帰りに夕飯の材料を買いこんで、やっと家だお腹すいたなあと思いながら、玄関のドアを開けてみたらなんですかココは。
「いつの間に、うちのドアはどこでもドアになった・・・?」
現れた自分の家から遠くかけ離れた部屋の様子に、言葉が口からぽろりとこぼれた。
(廊下・・・うちって玄関を開けたらすぐにキッチンだったよね?)
とりあえずドアを閉めてたっぷり数分も玄関に立ったままいろいろと考えを巡らせて様子を伺っていると、いきなり誰かがドアを開けた。
黒髪で眼鏡をかけた男の子だ。このご時世珍しく着物を着ている。
「っわ!あ、依頼人の方ですか?もう銀さん、いるんだったら案内くらいしてあげてくださいよもう・・・さ、上がってください」
始めこそ私の存在に驚いたようだったが、誰かに悪態をつき、ささと手慣れた様子でスリッパを用意して私に勧めてくれた。
「あ、りがとうございます・・・」
銀さんって誰だろうと混乱しつつも、靴を脱いで勧めてくれたそれを履き、恐る恐る少年について中に入る。
中は事務所のようだった。ソファーと机、あと事務机が並べられている。
ぐるりと室内を見渡して一番目を引いたのは、『糖分』と書かれた書道額。なんで糖分?と頭をひねるが、まあそんなものこの際はいい。置いておく。
そんな私の様子を気にすることもなく、ソファーにどっかりと座っていた銀髪で天然パーマの男性が言葉を発した。
「で、オネーサンは何の依頼で万事屋に?今月依頼があんまりなくってさあ、なんでも依頼は受けるぜ。とりあえずソファーに座る?」
目の前で対に置かれている一人掛けのソファーを勧めてくるこの男性も、よく見たら着物のような服を着崩している。
現代の日本では京都や観光地でない限り着物の男性が1人いることすら珍しいのに、2人も。なんだここは。
というか、私の家、部屋はどうなったのだ。
「私の・・・部屋」
思わずぽつりと呟くと、銀髪の男性が続きを繋げた。
「オネーサン部屋がどうしたの?もしかして家追い出されちゃった?そんなわけなーよな」
そうハハッと笑ってこちらを見て、酷く驚いた表情を浮かべた。
「わりーわりー、そんな泣くと思わなくってよ、茶化して悪かった。部屋がどうしたんだ?」
泣くだなんて。どうしてそんなと思い、目元に手をやるとしっとりと濡れていて、そういえば頬にも涙が伝う感触がある。
泣いているということを認識した瞬間、涙はとめどなく頬を濡らしていく。
「ちょっ、おい、どうしたんだって。新八、とりあえずお茶淹れてやってくれ」
「そんなこと言われずとももう用意していますよ。こちらに置いておきますね」
座りもせず机のすぐ近くに突っ立ったままの私に、新八と呼ばれた黒髪の少年が声をかけてくれ、やっと私はソファーに崩れこむように座りこんだ。
気を遣って私がしゃべりだすのを待っているのか、グズグズと私がしゃくり上げる音が静かな室内によく響く。
しばらくしてようやく落ち着いた私はぽつりぽつりと話し始めた。
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