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それはとある日の昼前の出来事だった。3限目と4限目の間の休憩時間。あと1限で昼食の時間がくる。1-Aの生徒達は昼食に何を食べようか、昼からの実技訓練は何をするのだろうか、そんな他愛もない話をしてそれぞれの時間を過ごしていた。

「あれ?校門のとこ誰か居る!!」

窓から身を乗り出してそう言ったのは芦戸だ。

「本当だ。誰だろう?」
「ウチの生徒やないみたいやね」

窓の近くに居た緑谷や麗日も校門の外に立っているその人物を眺めた。黒のカーディガンにグレーのスラックスは雄英の制服ではなさそうだ。距離があるので顔まではよく見えないが、すらりとした背格好に綺麗な黒髪が映えている。

「ケロ。誰か待っているのかしら」
「そのように見えますわね」
「ねーねー!顔はよく見えないけどさ、結構イケメンじゃない?!」

きゃいきゃいと芦戸がはしゃぐ。教室の端で峰田が「これだから女子は」とため息をつきながら、やれやれ、と首を振る。顔も見えないのに背格好だけでイケメンだとは。そんな上手い話があってたまるか、というのが彼の言い分である。確かに一理ある、緑谷はそう思った。イケメンというのはなかなかに希少価値の高い存在だ。しかしこのクラスには轟という屈指のイケメンが存在するのだが。まぁそれは件の彼とは関係のない話である。

「あれ、相澤先生?」

緑谷がイケメンについて持ち前のナードっぷりを発揮していると、このクラスの担任である相澤が校舎を出て校門の方へ向かっているのが見えた。

「もしかして待ってたのって相澤先生?」
「まさか〜そんな事ない…って本当に相澤先生だ!!」

そして相澤は校門の外に居た件の彼と親しげに一言二言会話をした(ように見えた)あと、何かを受け取った。黒い包みのようだ。包みを渡した彼は校門を通ることなく帰っていった。その一部始終を見ていた芦戸たちを発端に教室内がさらに騒がしくなる。それもそのはず。雄英高校ヒーロー科1-A担任である相澤消太はプロヒーローでありながら殆どその姿をメディアに晒していない。私生活や家族構成などの情報も謎に包まれている。そんな相澤が他校の生徒と関わりをもっていたのだ。しかも親しげに話をし、恐らく私物であろう何かを受け取っていた。これは由々しき事態である。

「えっえっ、あの子誰?!相澤先生とどんな関係が?!」
「見た目からして俺らと同じくらいじゃねぇ?」
「そうだなー。ってことは相澤先生の子供?とか?」
「相澤先生は今年30歳だとおっしゃっていた!それでは計算が合わないぞ!」
「普通にただの知り合いなんじゃねぇか」
「もしかして恋人、とか?!キャー!」
「それはねぇわ〜」

件の彼について様々な憶測が飛び交う。もはや収集がつかない。緑谷はちらりと爆豪を見た。興味なさげにスマホを弄っている。その時、休憩時間を終える知らせのチャイムが鳴った。4限目は幸か不幸か、渦中の相澤が担当する教科であった。