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「あ」
「あ」
「ん?」

麗日のランニングシューズを求めてショッピングモールへ訪れた緑谷と麗日。取り敢えず品揃えの良いと評判の某スポーツブランドのショップへ入ろうとした時、既に店内でインナーウェアを見ていた人物とふと目が合う。それは先程までの2人の話題の当事者、止だった。

「あ、あああ相澤くん?!どうしてここに?!」
「えっと、買い物に…?」
「そりゃそうやでデクくん!それ以外あらへん!」
「そっか!そうだよね!!」

緑谷と麗日の怒涛の喋りにぽかんとしている止。しかしじわじわとキいてきたのだろう、ついに吹き出し、笑い始めた。

「あははは、2人とも面白ね、息ぴったりだ」
(すごい、笑った顔もイケメンや)
(あああまたやってしまった恥ずかしいいいいい!)



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それから麗日はこのブランドに詳しいという止からのアドバイスを受け無事にランニングシューズを購入することができた。フィッティングの際、椅子に腰掛けている麗日の前に片膝をついてシューズを履かせる止の姿があまりにも様になっていて、当人である麗日は勿論、横で見ていた緑谷も思わず赤面してしまった。

「相澤くんありがとぉ!お蔭でええの買えたわ〜!」
「どういたしまして。良いものが見つかってよかった」

買い物を終え、まだ時間があるということで3人は同じフロアに入っているカフェへ入る。麗日はミルクティー、緑谷はオレンジジュース、止はカフェオレを頼んだ。

「相澤くんはよくここへ来るの?」
「欲しいものがある時はここへ来ることが多いかな。あと、相澤って担任と一緒で呼びづらいでしょ?止でいいよ」
「えっ!あ、じゃ、じゃあ止、くん…!」
「うん、ありがとう。2人は緑谷くんと麗日さん、でいいんだよね?」
「そうそう!私は麗日お茶子、んでこっちが緑谷出久くん!ってあれ?なんで名前…」
「今日軽く名簿見せてもらったから」
「あ、それでか!」

運ばれてきた飲み物を各自飲みながら話をする。訓練時の止は恐怖さえ感じるほどの威圧感があったが、実際こうして話をしてみるとそんなことは全く無い。むしろ声のトーンだとか話し方だとか、そんなところに心地よさを感じる。頭も良いらしく知識も豊富だ。

「じゃあ止くんは私らと同い年なん?」
「そうだよ」
「同い年であの強さ…!止くんはすごいんだね!!」
「ありがとう。昔から消太さんにしごかれてるからね。今の俺があるのは消太さんのお蔭なんだ」

カラカラとグラスの中の氷をストローで混ぜながら、止はどこか憂いを帯びた顔で言う。その顔があまりにも高校生離れしたものだったので、緑谷と麗日は何故か見てはいけないものを見てしまったような気持ちになった。

「あ、そ、そうだ!止くんの個性ってどんなものなの?!」

なんともいえない空気をかき消すように、緑谷が食い気味に問い掛ける。

「俺の個性は"静止"。視界に入った生物の動きを一時的に止めることができる。瞬きをすると解けるからあまり長い時間は発動できないんだけど」
「こ、個性まで相澤先生に似てる…!」
「うん。だから消太さんにはそういったことも含めて色々アドバイスして貰ってるよ」
「…もしかしてドライアイやったりする…?」
「消太さんほどじゃないけどね、やっぱり目薬は必須かな」

やっぱりー!麗日はどこか嬉しそうだ。そんな麗日の横で、緑谷はいつの間にか取り出していたヒーロ分析ノートに止の情報を一心不乱に記録している。それから程なくして、止は家のことをしなければいけないから、と申し訳なさそうに言った。買い物を済ませてから小1時間ほどが経っており、もうよい時間になっていたのでこの場はこれで解散となった。別れ際に止と連絡先を交換することができた緑谷は、他の1-Aの生徒たちよりも早く止の連絡先を知れたことに少し優越感のようなものを感じて、思わず口角が上がるのを抑えられなかった。