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緑谷が登校し教室へ入ろうとすると、何やら教室内がいつも以上に賑やかだった。扉を開けると上鳴の席の周りに既に登校していた他の生徒たちが集まっている。

「お、緑谷じゃん!なぁなぁこれ見てくれよ!」

教室に入った緑谷の存在に目敏く気付いた上鳴が、前に立っていた切島と瀬呂を押しのけ嬉々とした様子で近付いてくる。緑谷が上鳴に差し出されたスマートフォンの画面を覗き込むとそこにはとあるネットニュースが表示されていた。

「これ…今年の進徳高校の入学式の記事?」

進徳高校は雄英高校と同じく国内随一の国立高校だ。雄英とは違い進徳には普通科しかないが、その偏差値は雄英ヒーロー科をも上回る。毎年受験シーズンになると進徳受験に望む中学生たちの様子がドキュメンタリー番組として放送され、入学式ともなれば優秀な人材を一目見ようと校外にマスメディアの人集りができ、その様子は大々的にニュースになる。恐らく国内にこの学校名を知らない者はいないであろう。そんな超有名校なのだ。

「そうなんだけどよ!ほら、ここ!ここ見てみろよ!」

上鳴はすいっと画面をスクロールし記事を進める。そして記事の中にある写真を指差した。

「これって…止くん?!」

そこには新入生代表として壇上に上がり宣誓をする止の姿が写っていた。写真の下には「今期受験した学生の中でトップの成績を修め合格した相澤止くん(15)。入学生宣誓も完璧で、その見目の麗しさも相まって来賓席からは感嘆の拍手がしばし鳴り止まなかった」とある。

「止くんて、進徳の生徒だったの…!しかも新入生トップって…!」
「昨日の夜ネサフしてたら見つけたんだよ!俺もちょービビったし!」
「まさか相澤さんが進徳の生徒でしただなんて…」
「ぼ…、俺も驚いた!身近に進徳の生徒がいるなんてすごいことだぞ!」

格好良くて、人当たりもよくて、ヒーローとしての戦闘センスも抜群で、その上勉強までできる。こんなにも才色兼備という四字熟語が当てはまる人物が他にいるだろうか。僕はまたとんでもない人と知り合ってしまった。緑谷は思わず止の連絡先が入った自分のスマートフォンをポケットの上から握りしめる。

「ところでさー、緑谷、いつの間に相澤…のこと名前で呼んでんだ?」

担任と同じ苗字を呼び捨てすることに抵抗を隠しきれないのであろう、妙に歯切れが悪い切島が緑谷に問い掛ける。

「じ、実はね…、」

そうして緑谷は、昨日麗日と一緒にショッピングモールへ行ったこと、そこで止に偶然会ったことを話した。

「ずっりー!俺も止に会いたかったー!!」
「上鳴、何どさくさに紛れて名前で呼んでんだよ!」
「だって本人が言ったんだろー?じゃあイイじゃん!」
「実を言うと、俺も相澤って呼びづらかったんだよな〜」
「俺も俺も!」
「私も止くんて呼ぶー!」
「いいのでしょうか、勝手にお名前で呼ぶなんて…」
「うん、きっと止くんはいいって言ってくれるとおもうよ」
「なんだよ緑谷〜!俺らより一回多く会っただけでもう友達面か!!」

緑谷も交え再び騒がしくなる教室内。そんな教室の中で、爆豪の発した舌打ちの音は、誰の耳にも届かなかった。