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放課後に急遽行われることになった担任を含む教職員たちとの面談。いつも不定期に、突然行われるこの面談が止は煩わしくて仕方がなかった。しかし今の止にとってこの面談は必要不可欠なものなので我慢するしかない。現在の学年内での学力順位、生活態度などを評価され、優秀者と認められた生徒のみに与えられる権利、それが進徳高校の校風のひとつである「特別授業免除」である。この権利によって止は一部の授業参加を免除されており、その空いた時間を使いヒーローになるための訓練を行っている。

(今回の面談は2時間…相変わらず無駄な時間だ)

特に有意義な話をするでもなく、ただ懇々と学力低下をしないよう念を押されるだけの面談。この2時間があればどれだけ他のことができただろうか。本当に不合理極まりない。幸い今日、叔父の消太は仕事後の飲み会に強制参加させられる為帰りが遅いと言っていたので、自分の分だけの食事なら帰りにコンビニにでも寄って買って帰ろう。帰宅したらシャワーを浴びて、軽く食事をして、明日の予習と今日の復習、そして日課である筋トレをしなければ。止は家路に就くべく足を進めながら、頭の中でベッドに入るまでの流れを考えた。

「…、何か用ですか」

人気のなく街路灯も少ない、ひっそりと薄暗い路地裏へと入った時、止は足を止め、学校を出てからずっと自分の後ろをつけてきていたであろう人物へと声を掛けた。

「なんだ、バレてたのか」
「学校出てからずっと付いてこられてたら流石に気づくでしょう」

振り返るとそこに居たのは、顔を含む皮膚のあちこちが継ぎ接ぎされた、何とも風変わりな風貌の青年だった。尾行がばれたというのに焦った様子は全くなく、飄々としている。止は万が一の場合に備えポケットの中に入っていた捕縛縄を握りしめる。

「流石、進徳の学年トップ。んで、アングラヒーロー、イレイザーヘッドの実の親族ってことか」

目の前の青年は依然として軽い口調だが、まるで値踏みするような鋭い視線で止を見つめている。そのなんともいえない威圧感に止は思わず、じり、と一歩後ろへ下がった。

「おいおい逃げんなよ。まだ何もしてないだろ」
「まだ、っていうのは…今から何かするつもりだと?」
「ハハッ、察しが良いな」

じり、じり。青年が一歩近付いてこれば、止が一歩下がる。それを数回繰り返しているうちに、随分後ろにあるはずだったブロック塀が止の退路を断った。止の背中がブロック塀に触れる。それと同時に青年は一気に距離を詰め、止を挟むように両腕を塀へとついた。鼻先が触れそうなほどの距離に青年の顔がある。継ぎ接ぎが痛々しいがその顔つきは酷く整っており、アイスブルーの瞳に思わず目を奪われそうになった。

「っ、なに…!」
「ンー。まぁ、アレだ」

ちょっとした味見、ってやつ?
直接耳に吹き込まれた低音に、ぞわり、止の肌が粟立った。己の身の危険を感じ取った止は咄嗟に個性を発動するとその隙に塀と青年の間から抜け出す。そして青年と一定の距離をとり身構える。咄嗟の発動だった為、すぐに止の個性は解除された。個性から開放され再び身体を動かすことができるようになった青年はにやにやと笑みを浮かべながら止のいる方へ身体を向けた。

「おいおい、一般市民の個性の発動はご法度だろ?いいのか優等生クン」
「ご心配どうも。既に仮免許は取得してる」
「流石だな。そうこなくちゃ、面白くねぇ」

青年が両手を構えると、掌から勢いよく青い炎が噴き出す。目が眩むほどの青を目前に、止はどうやってこの場を乗り切るかの算段を立てることに集中することにした。