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「しっかしなー、まさか相澤先生に甥がいたなんてなぁ」

5、6限の戦闘訓練の授業を終え、1-Aの生徒たちは更衣室へと入り各々ヒーロースーツから制服へと更衣を行っていた。そんな中、男子更衣室でシャツのボタンを留めながら上鳴が思い出したようにそう呟く。

「相澤先生だって親戚の1人や2人いるでしょーよ」
「でも甥だぜー?甥ってことは先生に兄弟がいるってことだろ?」
「それ思った。なんか意外だよなぁ」

そんな上鳴の呟きに、並んで更衣をしていた瀬呂と切島、尾白が続く。

「緑谷はその甥っ子見たんだろー?どうだった?先生に似てた?」
「えっ?うーん、見たには見たけど、遠くて顔まではわからなかったよ」

上鳴に話を振られた緑谷はビクリと肩を震わせ、唇を指で摘みながらあの時窓から見えた彼のことを思い出す。距離があった為その顔つきは殆ど見えなかったが、すらりとした身体つきと風に揺れる柔らかそうな黒髪が妙に印象に残っている。

「あ、でも背は高かったと思う。轟くんくらいかなぁ」
「お。そうなのか」
「あと学生服を着ていたから…きっと僕らと同じ高校生だと思う」

どこの学校かまではわからないけど、と緑谷は続けた。

「フーン…相澤先生の甥なのに、雄英来なかったんだな」

ぽそり、上鳴がそう呟いた瞬間。バン!と盛大に、これでもかという程の力を込められて、ロッカーの扉が閉まった。爆豪のロッカーだ。勿論扉を閉めたのは爆豪本人である。

「くっだらねぇ。来なかった、んじゃなくて来れなかったんだろーが」

爆豪はそう言い残すと、またもや盛大に更衣室の扉を開け、教室へと戻っていった。爆豪の言う通り雄英高校は国内屈指の難関校であり、その中でもヒーロー科は特に狭き門である。生半可な覚悟で入れるような学校ではない。きっと相澤の甥であろうとも入学することはできなかったのだろう。その場にいた面々はそう結論をつけこの話題に終止符を打った。しかしただ1人、緑谷だけは、何となく引っかかるものを感じていた。

(あの人…どこかで見たような気がするんだけど…思い出せない…)