04


定時が過ぎ、諸々の残業を終えた相澤はぐっと背伸びをしながら時計を見た。時計の針は20時30分を回っている。今日は比較的早めに作業が終わった。そう思ったが周りにはもう誰も残って居らず職員室内はがらんとしている。机の上の書類を整理しノートパソコンをシャットダウンすると、ようやっと今日の仕事が終わったのだと心から思えた。



===============




「お帰りなさい、お疲れ様です。もうすぐ夕飯できるんで先にお風呂どうぞ」

帰宅した相澤を迎えたのは、労いの言葉と美味しそうな料理の匂い、そしてきらきらとした甥だった。

(まぶしい…)

相澤が甥である止と同居し始めてもう数ヶ月が経つ。今までの生活といえば仕事を終え帰宅すると軽くシャワーを浴び、帰宅途中に買ったつまむ程度のものをノンアルコールビールで流し込こむのが夕食代わり。それすら煩わしい時はゼリー飲料で済ませたりもしていた。そして持ち帰った仕事を片付け夜遅くに眠りにつく。相澤にとって日常生活とはその程度のものだった。それが今では毎日湯船に浸かり、止の作った温かい食事を食べ、他愛もない話をしたり一緒にTVを観たりと共通の時間を過ごす。勿論お互い1人になる時間は設けているし忙しい時にはすれ違うこともあるのだが、それでも以前と比べて格段に環境条件は良くなっているのは事実である。

風呂を済ませ夕食を向かい合って食べる。初めはお互いに照れくさかったりもしたが今ではすっかり板についてきた。

「今日はわざわざすまなかった。ありがとう、助かったよ」
「俺今日午後からだったから丁度良かったです。消太さんも忘れ物とかするんですね」
「俺も一応人間だからな…。あと弁当美味かった」
「それは良かったです。頑張ったかいがありました」
「忙しいなら別にいいんだぞ。手間だろう」
「半分趣味みたいなものなので楽しいです」

それに消太さん、今日もまたゼリーで済ますつもりだったでしょう。そう止に指摘され、相澤は図星だったのを隠すように肉じゃがを頬張った。止は毎日ではないが頻繁に相澤の弁当を作る。止自身は学校の学食を利用しているので弁当は必要がない。完全に相澤の為だけに作られている。相澤はそれが申し訳なかったのだが、止本人が作りたいから作るというのでその言葉に甘えている。実際止の作った弁当はいつも見栄え良く美味しい。同僚のマイクから「良妻だな」とからかわれたりもしたものだ。その度にマイクは捕縛布で締め上げられた。

食事をしながら今日あったことやTVで見たニュースのこと、帰路で見つけた野良ねこの話などに花を咲かせたあと、相澤は昼間校長に頼まれた、例の件、の話をすることにした。

「止。今度ウチのクラスで対敵を想定した戦闘訓練をするんだが、お前さえよければ参加しないか」