05
相澤の甥である止の存在を1-Aの生徒たちが知ってから数日が経った。目まぐるしく過ぎる日々の生活に追われ、もう初めの頃のように止の情報を得ようとする生徒は居なくなっていた。
「この時間は、対敵を想定した戦闘訓練を実施する」
「私と相澤くんが担当するよ!気を引き締めていこう!」
各々のヒーロースーツに身を包んだ生徒たちの前に、マッスルフォームのオールマイトと相澤が立つ。今回使用されるのは建物が密集した工業地帯がモチーフとなっている運動場γだ。対敵を想定した戦闘訓練、という言葉を聞いて、生徒たちは気合を入れるかのように背筋を伸ばす。相澤が手持ちの資料から訓練内容を説明しようとしたその時、連絡用の通信機から電子音が鳴った。相澤はオールマイトと生徒たちに背を向けその通話に応ずる。その声は小さく聞きとることはできない。通話を終えると相澤はオールマイトになにかを耳打ちした。
「…そうか。うん、わかったよ」
その様子を不思議そうに眺める生徒たち。
「野暮用ができた。俺とオールマイトさんは少しこの場を離れる。各自ウォーミングアップをして待機しているように」
「ごめんね!すぐに戻るよ!」
キラリと白い歯を見せてオールマイトは片手を上げる。そしてそのまま2人は運動場から離れていってしまった。
「行っちゃったね」
「すぐ戻るって言ってたし、先生の指示通り準備体操でもして待ってようぜ」
残された生徒たちは相澤からの指示を守りウォーミングアップを始めた。すぐに戻る、の言葉を信じて。しかし10分、20分と経っても一向に2人は戻ってこない。一体何があったのだろうか。生徒たちを取り巻く空気が不穏なものへと変わっていく。そんな空気の中、緑谷は微かな異変に気付く。
(今、建物の上に人影が見えたような…)
オールマイトと相澤が戻ってきたのだろうか。逆光でよく見えない。じっと目を凝らすと確かにそこには人が立っていた。しかしその姿形はオールマイトでも相澤でもない。あれは、誰だ。
「ねぇみんな、あそこに誰か、」
緑谷がそう言葉を発しようとした瞬間。
「おい!来んぞ!!」
同じく爆豪が叫び、轟も建物の方角を見据え構える。爆豪と轟も緑谷と同様に建物の上の人物に気が付いていたようだ。爆豪が叫んだことによって他の生徒たちも異変に気付く。と同時に白い縄のようなものが比較的前方に立っていた耳郎と上鳴を捕縛した。
「ぐえっ?!何だこれ?!」
「ッ!硬くて全然解けないっ…!!」
なんとか縄を解こうと2人は身動ぐが、身動ぐ程に縄は食い込み、更に硬く縛り付けてくる。
「上鳴!耳郎!大丈夫か?!」
「一体何なんだ!?敵か?!」
「そんな、また?!今は先生たちも居ないっていうのに…!」
数ヶ月前に起こったUSJでの敵連合による襲撃事件。あの時のようなことがまた起こるというのか。生徒たちに焦りと不安が過る。
「ッハ!何処のどいつだか知らねぇが、やられる前にやりゃあ済む話だろうが!」
「俺たちはあの頃よりも成長している。そう簡単にはやられねぇ」
「うん、せめて先生たちが戻ってくるまで…僕らで食い止めよう!」
爆豪、轟、緑谷の言葉に他の生徒たちも身構える。その様子を、建物の上の人物はじっと静観していた。