07


相澤とオールマイトによって捕縛されていた生徒たちが解放されていく。その様子をじっと見ている、相澤に"スティルネス"と呼ばれた青年。相変わらずゴーグルと襟元に邪魔をされ表情はわからない。

「さて、みんな無事かな?」

オールマイトからの問い掛けに、未だ事の顛末を知らない生徒たちは困惑の色を隠せないでいた。

「先生方、一体これは…」

やっと口を開いたのは飯田であった。いきなり襲撃に遭い、あっという間に捕らえられてしまったかと思えば、当の人物は相澤やオールマイトに取り押さえられるどころか平然と自分たちの前に立っている。到底納得のいく状況ではない。その思いは他の生徒たちも同様であった。

「それは今から相澤くんが説明するよ!」

じゃあよろしくね。オールマイトに話を振られた相澤はちらりと生徒たちを見渡す。

「…今回、対敵を想定した戦闘訓練ということで、お前たちがマンネリ化しないように特別に外部から敵役に来てもらった。スティルネスだ」

相澤に名を呼ばれ軽く頭を下げる仕草を見せる"スティルネス"。どうやらこの一連の流れは相澤によって仕組まれたものだったようだ。その事実を知って生徒たちはぽかんと口を開ける。勿論、頭の良い八百万や爆豪などは早々に勘付いていたようだが。

(スティルネス、なんてヒーローいたかなぁ…?僕が知らないだけ…?)

相澤の言葉に、ヒーローに関する知識量に自信のあった緑谷は頭の中でぐるぐると記憶を辿る。しかし一向に"スティルネス"というヒーローの情報は思い浮かばなかった。相澤と同じ様にアングラ系ヒーローとして活躍しているのだろうか。それとも新人なのだろうか。こんなに強いのに一切メディアに出ていないなんて…?思わずブツブツといつもの癖が出てしまい、横にいた麗日に軽く肩を叩かれ正気に戻る。

「奇襲をかけられたとはいえあまりにも呆気なかったな。ヒーローは常に周囲の状況を把握し即座に対応する能力が求められる。授業だからといって気を抜かないように」

そして別室で見ていたという戦闘の様子、それに対する評価を生徒1人ずつに告げていく相澤。今回の戦闘訓練は状況把握力をメインとしていた為、なんとか最後まで捕縛されることのなかった緑谷、爆豪、轟の3人は及第点であったようだ。

「せ、先生!ちょっといいですか!」

評価が済み、そのまま解散となりそうな流れに逆らって手を上げたのは緑谷だ。

「どうした、緑谷」
「えっと、その、スティルネス…さん…?は一体どんなヒーローなんですか?」
「ああ、そうだったな」

がしがしと髪をかきながら、やや後方にいたスティルネスを自分の横へと呼び寄せる相澤。改めてまじまじと見る"スティルネス"と呼ばれている彼は、すらりと背が高く相澤と並んでもそこまでの差は感じられない。大きなゴーグルで目を覆い黒で統一されたヒーロースーツ。装備品はあまり見受けられなく比較的軽装の様だ。この辺りもどこか先生に似ているな、と緑谷は思った。

「こいつはヒーローじゃない」
「え?!」
「正確には、まだ、だが。今はお前らと同じ、ヒーロー志望の学生だ。そして、」

相澤が目配せをするとスティルネスは軽く肯いた。目を覆っていたゴーグルを外し、口元を隠していた襟を下へとずらす。

「俺の甥だ」
「初めまして。相澤消太の甥、相澤止です」

出てきたのは、くたびれた担任とは似ても似つかない、端正な顔立ちの好青年だった。