ブルーグレーの熱
前半モブ×名前くん要素強いです
薄暗い室内に荒い息遣いが響く。まるで発情期を迎えた犬のようだ。情報によれば、この犬はどこぞの大手企業の役員らしい。普段はふんぞり返って人を顎で使っているのであろう人物が、今は鼻息を荒くしながらご機嫌をとろうと、必死になって首筋を舐め回している。その姿があまりに滑稽で名前は口元を歪めた。
「はぁっ…名前くん…はぁはぁ…可愛いね…」
「可愛い?やだなおじさん、俺成人してんだよ?背だっておじさんより高いのに」
「名前くんの可愛さは、そういうのじゃないんだよ…!はぁ…はぁっ…」
「ふうん」
興奮でじっとりと汗ばんだ手が名前のインナーをたくし上げる。現れた青白い肌に目の前の男はむしゃぶりついた。生暖かい舌が腹筋の筋を這う。まるでナメクジが這っているようだ。
「だめだよおじさん。ここから先は別料金。例の情報は?」
やんわりと頭を引き離しながら、いやらしくぺろりと唇を舐めて見せる。それを見て男は興奮を抑えきれないと増々息を荒げた。
「っオールマイトと、それを取り巻くヒーローの情報、だったね…!」
「そうそう。おじさん何か知ってるんでしょう?」
オールマイトの事務所とつながりのある大手企業の役員さんなんだし。そう言うと、男は目線をまごつかせながら、歯切れの悪い弁解をし始めた。
「た、確かに私は役員をしている!しかし、そういった重要機密事項は私程度の役職では…」
「…知らない?全く?嘘ついたんだ?」
「…そ、そんな…!でも名前くんに対する気持ちは本当だよ!ひと目見たときから私はきみの虜になったんだ!ずっとこの肌に触れたくて堪らなかったんだ…!!」
がばりと勢いよく名前を床に押し倒す。そのまま再びインナーを胸上まで上げると、興奮で震える手で名前のスキニーデニムを脱がそうと躍起になっている。ああ、なんて卑しくて浅ましい。
「ごめんねおじさん。俺、嘘つく人、だいっきらい」
ブルーグレーの瞳は酷く冷たい。名前はゆっくりと両手で男の頭を抱える。その瞬間、男は身体中の血液が沸騰しているような感覚に襲われ、絶叫した。
「あ"、あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」
パァン
部屋中に生ぐさい鉄の臭いが広がった。ただの肉の塊となったそれらを払い除けながら、名前はスマートフォンを取り出し操作する。
「もしもし。うん、やっぱりガセだった。え?そんなに怒らないでよ。大丈夫、何もされてない。じゃあ今から帰るよ、弔」
「ああ、名前!大丈夫?何もされてない?相手は殺してきたか?」
「大丈夫だよ弔。何もされてない。相手もちゃんと殺してきた」
名前が拠点であるバーに帰ると真っ先に飛んできたのは死柄木だ。心配そうに眉尻を下げて名前の顔を覗き込むその姿は、まるで親の帰りを待ち望んでいた子供のようである。そんな死柄木の癖のある柔らかい髪を撫でながら、名前は黒霧のいるカウンターへと座った。
「お帰りなさい、名前。どうやら無駄足だったようですね」
「本当に無駄足だった。ただ気持ち悪いおっさんに会っただけ」
「それはご苦労さまです。それはそうと、シャワーでも浴びてきては如何です?」
酷い有様ですよ。黒霧はグラスを拭きながらそう続けた。
「本当だ。あーあ、俺も弔や荼毘みたいに汚れず殺せたらよかったのになぁ」
「名前、俺の前であいつの名前を呼ぶな」
いつの間にか隣に座っていた死柄木はむくれた顔をして名前の顔を掴んだ。個性が発動しない様に人差し指が浮いている。
「ごめん弔。怒らないで。俺は弔が1番すきだよ」
とろりと熱を孕んだ声で、名前は死柄木に許しを乞う。死柄木は名前のこの声がすきだ。いつもは飄々としている名前だが、今まで数えきれないほどの人間を陥れてきている。見た目はそこまで女性的なわけではない。しかし、名前を取り巻くどこか危うげな雰囲気が、人を魅了してならないのだ。そういう時に使われるこの声色もその魅力の1つなのだろう。
「じゃあ俺シャワー浴びてくる。弔、またあとで」
そう言って名前はバーの奥へと消える。またあとで、の言葉に死柄木は期待で口元が緩みそうになるのを手で覆い隠した。
「はぁ…名前…すきだ…」
この後、シャワーから出てきた名前と出先から戻ってきた荼毘が鉢合わせし、それを死柄木が目撃するという修羅場が発生したのだと、荼毘と一緒に帰還したトガが楽しそうに黒霧へ報告しにきたのは、どこまでもいつもの光景である。
名前くんの個性は『マイクロ波』。要するに電子レンジです。