寄り道も捨てたもんじゃない





「えーっと……シャンプー、トリートメント、柔軟剤、歯みがき粉、化粧落とし、ティッシュ、ごみ袋。レトルトに冷凍食品…あと、お茶…は、ケースで買う、っと……うん。大丈夫だな」


現在、薬局にてお買い物中。手に持ったメモと買い物かごの中身を照らし合わせて、買い忘れがないかチェック。道中絶対に忘れる自信があるから、必要なものはこうして書き留める癖をつけている。書いているときに既に忘れている場合は…まあ、どんまいって感じ。

さて、確認が済んだら精算しなきゃ。レジに行って、お金を払って、袋に詰めて、車に積み込む。今日は薬局以外に用事は無いし、取り敢えず買うべきものは買った。あとは…なにして過ごそうか。休日って、いつもなにをしていたか思い出せない。老いるの早すぎやしないか。思い出せないものは仕方ない、ひとまず車を発進させて、帰ることにしよう。……あ、そうだ。帰る前にコンビニ寄ろう。コンビニ限定のアイス、美味しかったんだよね。おなか空いてるわけじゃないんだけど、急に食べたくなった。こうなると食べなきゃ気が済まない。頭で考えるより先に、手が動いた。ウィンカーをあげて進路変更。

お店に入って、お目当てのアイスと、それだけじゃなんか微妙な気がして当たり障りのないお茶を買った。さっき薬局で買ったばかりなのに…と思いつつも、まあ仕方ないと諦める。コンビニを出ると、わたしの車のすぐ近くに、ひとつの人影が見える。その人物のことは、わたしもよく知っていた。


「翠くん!」


わたしが呼ぶと、こちらに振り返って、いつもみたいな穏やかな表情になった。それまでは少し遠慮がちに、車内の様子を伺っていた翠くん。その姿は、完全に不審者のそれだった。でもイケメンだから許されるんだろうな。わたしは翠くんって時点で許す。


「やっぱり、芽衣さんだった」

「やっぱり?」

「これ、芽衣さんの車っぽいなって思って…よかった。合ってた」


わたしの車は数えられる程度しか見ていない気がするし、この車にそこまでの特徴があるわけでもないと思う。それでも、翠くんがなんとなく気にしてくれたってだけで、嬉しい。


「芽衣さん、お仕事は?」

「今日は定休日」

「え、定休日だったんですか…?」

「うん。知らなかった?」

「…知らなかったです」


気のせいかな?「知らなかった」と言った翠くんの肩が、しゅんと落ち込んでいる気がして。もしかして、今日もお店に来ようとしてたのかな。ごめんね、わたしも言うべきだったね。


「でも…よかった。逢えて」

「ん、どうしたの?」

「芽衣さんに渡したいものがあったから」


翠くんは持っていた袋をわたしに向かって差し出す。受け取って中身を見ると、バリィさんの顔が確認できた。なんと、バリィさんのボールペン、シャーペン、タオル、セラミックカップが入っていた。


「うわあ!可愛い!」

「でしょう!全部俺の一押しです」

「レベル高いね!センスありすぎでしょ!」

「昨日の今日ですけど、ちゃんと厳選しましたよ」

「え?………あっ」


本当に、記憶力が乏しくなったと痛感。つい昨日のことじゃない。翠くんが、おすすめのバリィさんグッズをくれるって言ってたのは。え、待って、こんなにくれるの?いいの?


「しかもこのボールペン、中の芯は市販のもので合いますから。極端な話、壊れるまで使えます」

「それは凄いね!使い捨てじゃないのは、有難いな」

「たくさん使ってください」

「ありがとう!全部、大切に使うね」


本当に、実用的なものを持ってきてくれるなんて。どれも使うものばかりだから、貰って困るものがなにひとつない。翠くんも満足そうにしているから、もうわたしも遠慮しないことにする。全部、ありがたく使わせてもらおう。それがいちばん、翠くんへのお礼になるだろうから。

だって、わたしがプレゼントしたものを、翠くんがすぐ使ってくれてるって知ってすごく嬉しかった。だから、翠くんがくれたものも、使ってこそ価値が出る。使ってこそ、喜んでもらえるはず。


「そういえば翠くん、今ひとり?」

「はい。…お店行くときは、基本的にひとりですよ」

「あ、ごめん。言われてみればそうだったね。これから帰るの?」

「そうですね。予定なくなっちゃいましたから、そうしようかと。…いちばん大事な用事は済ませられたから、満足ですけどね」


いちばん大事な用事って、どう考えてもわたしにバリィさんグッズを届けることだよね。それができたから満足って、なにそれ、めっちゃ嬉しい。それがたとえ趣味の共有以外の意味がなくたって、嬉しいものは嬉しい。


「そうだ。わたしも買い物済んで、帰るところなの。よかったら乗ってって。送るよ」

「……ドライブは…?」

「もちろん大歓迎。なら、もっかいコンビニ行ってくる。一緒にアイス食べてから行こうよ」

「じゃあ、俺も行きます」


翠くんの分もお茶とアイスを同じものを買って、荷物を後部座席に置いてもらって、車に乗り込む。まずは溶けないうちにアイスを食べることから始めよう。


「……美味しい…」

「でしょ?今のわたしの一押し」

「ちょうどいい甘さですね。このチョコが」

「そうそう!しつこすぎないところがいいの!さすが翠くん、わかってるね」


翠くんは大層気に入ってくれたのか、「美味しい」「みんなに紹介してあげよう」と言った。みんなって、流星隊のメンバーのことかな?だとしたら本当に仲良しだなあ。しかも、そう言ってくれたのが、わたしが勧めたものだ。別にこのアイスの開発者ってわけでもなんでもないけど、それでも嬉しくなる。わたしたち好みが合うんだなって、勝手に嬉しくなっちゃう。今日はとにかく、嬉しいことばかりだ。

ふたりとも食べ終えて、口直しのお茶をひとくち飲んで、エンジンをかける。シートベルトもつけて、準備万端。


「さて。今日は、どこか行きたいとこある?」

「強いて言うなら、行きつけの雑貨屋かな。ゆるキャラのグッズ、新作がないか見たいかも…」

「いいよ。お店まで案内してくれる?」

「わかりました。まず、この通りを真っ直ぐです」

「真っ直ぐね。おっけー」


この前みたいにあてのないドライブもいいけれど、今日みたいに行きたいところに連れてってあげるのも、きっと楽しいはず。まだ出発して間もないけれど、ほぼ確信してる。だってもう、すでに楽しくて仕方がないもん。

翠くんがわたしを見つけてくれたお陰で、今日はまだまだこれから楽しい休日になること間違いなしだ。家に帰るには、まだ早い。今日は、まだまだこれからだよ。



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