興味の対象はひとりだけ
「ね!また流星隊のライブいこうよ!」
夜、例の友人から電話が掛かってきた。挨拶もそこそこに、二言目には今のお誘い。あんたそれ絶対わたし以外にやるなよ。引かれるから。まあ、そもそも向こうもわたししか誘う人間いないか。
「ん、いいよ」
「あれ!こんなあっさり承諾してくれるとは思わなかった」
「前回だってそんなに渋った記憶ないけど」
「でも今みたいに二つ返事じゃなかった」
「それは自覚ある」
仕事以外の外出は自分のタイミングでしたい。自分の気分で動きたい。普段はそんな考えのわたしだ。でも、この親友の頼みならきいてもいいと、一緒に行ってみてもいいと思った。自分の気持ちを一瞬優先させたのが、前回ちょっとだけ渋った要因だった。
「でもほんとに珍しい。どういう心境の変化?」
「んー…なんとなく」
「誤魔化すの?水くさい」
「あはは、敵わないなあ。…自分でも驚いてるんだけどさ。たまに、あのライブを思い出す。よかったな、楽しい時間だったな、って」
なにも知らないわたしでも、心の底から楽しめたライブ。あっという間の二時間弱だった。夢のような時間ってああいうことなんだと、はじめて実感した。
「だから…実は、また声かけてくれないかなって思ってた」
「ほんとに?だったら芽衣から誘ってくれていいのにー」
「わたしがそういうタイプじゃないの知ってるでしょ」
「まあね。でも嬉しい。芽衣も流星隊に興味もってくれて」
うん、と頷いた。頬が緩んでいるのが自分でもよくわかる。流星隊のことを考えると、自然と楽しい気持ちになるんだ。興味をもたせてくれるきっかけをくれた友人には、ほんとに感謝。
「ね、芽衣は誰推しになったの?」
「はい?」
「ちなみに私は圧倒的深海奏汰くん!」
「あー、ウン、知ってる。あと守沢千秋くんね」
「覚えてくれたんだ!でもねでもね、あのライブで忍くんもいいなって思ったの!小さい身体であんな迫力あるダンスに、意外と低くてしっかりした声!あの子は将来化けるね!千秋くんと奏汰くんが卒業したあとも楽しみができたよ!でも勘違いしてほしくないんだけど鉄虎くんと翠くんも素敵だと思ってる!やっぱり五人揃って流星隊!みんな違ってみんないい!」
「わかったわかった。落ち着きなされ」
ほんと、流星隊のことになると人格変わるなあ。それだけ夢中になれるものがあるのはいいことだと思うけど。だから「それ前も散々聞いた」なんて野暮なことは言わないでおく。
「あくまで、今のところ、だよ?」
「うんうん」
「背の高い、緑の子。高峯翠くん」
高峯くんの名前を告げると「おお〜!」というテンション高めの謎の相槌。それはどういう意味なのか。そもそも誰の名前を言っても似たようなリアクション返ってきたような気もする。
「なんか意外。勝手な予想だけど、千秋くんかなって思ってた」
「千秋くんも、もちろん他のみんなも凄く良かったよ。でも、強いて言うなら、ね」
ごめん、友よ。わたしは現在進行形で大嘘をついている。みんな良かったっていうのは本当だけど、強いて言うならってところが違う。そんな表現しなくても、わたし今圧倒的に高峯くん推しなんだ。そうなることになったきっかけは、唯一無二の親友相手でもさすがにまだ話せない。
「ね、ひとつ興味本意で質問」
「なんだい芽衣ちゃん」
「わたしが深海奏汰くん推しって言ったら、どんな反応した?」
「え、ええっ!えーっと……どうしよう、すごい、複雑…」
「なんで」
「好きって気持ちは共有したいし、奏汰くんの魅力は語りたい。だから流星隊のライブ誘ったわけだからね。……でも、正直…同じ奏汰くん担当になったら、ライバルって思っちゃいそうで、そんな自分が嫌…」
「同担拒否すか」
「基本はね。でも芽衣ならそうもいかないじゃん…」
「あはは、ごめん。意地悪い質問だったね」
「ほんとだよ!」
電話口で友人がどんな顔してるか容易く想像できておかしかった。困らせちゃったのは悪かったしもう一度お詫びの一言と「わたしは高峯くん派だからご心配なく」と付け加えた。
「でも、目当ての子できるとライブが一層楽しくなるよ。だから芽衣、次はもっと楽しめるはず」
「ほんと?じゃあ気合い入れなきゃね。日程わかったら教えて。早めに休みの申請とか時間の交渉するから」
「うん!絶対行こうね!絶対だよ!約束だよ!」
「はいはい。約束する」
じゃあね!と切った声が弾んでる。なんか、めっちゃ喜んでもらえたらしい。ああいう素直なところは、同性から見ても可愛いなあって思う。
次の休み、いつだっけ。ライブ用に、ちょっと洒落た洋服買おうかな。…って、なにを考えているんだわたしは。デートに行くわけじゃないのに。そもそも行く相手がいないけど。でも……高峯くんに見られても平気な格好していこうだなんて、浮かれすぎもいいところだな。高峯くんに気付いてもらえるかどうかなんて、天文学的数値に等しいのに。ああ、これがファン心理なのかなあって、ひとりで妙に納得してみた。
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