
仁王の詐欺に引っかかる(tns)
プラスタグSS
「おーい、不良少年。柳生くんが探してた、よ……あらま」
ほとんど誰も通らない非常階段下のスペースは仁王のサボりスポットの一つ。近くに停められた教員の車の下からたまに現れる野良猫と戯れている様子を定期的に見かけるので知っている。
だから困っていた彼の相棒に代わり呼びに来たのだが、当の本人はひんやりした日陰で丸くなっていた。怖いくらい鋭い瞳は閉じられ、薄っぺらな胸部が規則的に上下する。近くにいる常連猫は、ピンクの髪ゴムでまとめられた銀色の尻尾に興味津々らしく、ちょいちょいと小さな前足でちょっかいを出していた。
近寄って腰を下ろしてみても、仁王は身じろぎひとつせず目覚める気配がない。果たして、起こしたら文句を言われてしまうだろうか。
「困ったな」
返事をするように猫が鳴く。その間も仁王の髪はおもちゃにされている。そのうち爪に引っかかってしまいそう。
「その辺にしといてあげなよ」
小さく語りかけながら、親切のつもりで興奮し始めた猫のの身体を持ち上げた。すると、
「えっ」
仁王の尻尾がポロリと取れたのだった。
これって着脱式なの? いやいや、でも結び直しているところ何度も見たことあるし。今生え際どうなってるわけ? あの仁王雅治に円形ハゲが? これはまずい!
絶句し慌てふためく私をよそに、猫は臍を曲げて走り去ってしまう。仁王と銀尻尾と私だけが残されてしまった。気まずいどころの話ではない。どうにか、どうにか切り抜けなければ!
「プリッ。髪を引っこ抜くとは酷いことするのう」
「オワ!」
しかし、短くなった襟足をガシガシと掻きながら仁王がむくりと起き上がる。思わず後退り距離を取ったが、手には言い逃れようのない髪束を握っているわけで。
「あ、あの、これは……」
「あーあ、頭が寒いナリ」
「……せ、」
「せ?」
「責任取ります……」
項垂れて答えると、仁王は目を丸くした後笑い出す。
「それじゃ、デート一回で手打ちにするか」
「えっ」
そう言った彼がもう一度頭を掻くと、そこにはいつも通りの尻尾があった。仁王の通り名が頭に浮かぶ。……騙されたんだ!
ハッとして文句を言いかけた私をしたり顔のペテン師が遮った。目が三日月を形作る。
「言質は取ったけ、逃げんなよ」