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陽炎の向こうの君(エース/OP)

プラスタグSS

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 手が届かない。映像の向こう側にいるエースの胸が煮えたぎるマグマに貫かれた。悲鳴を上げる余裕もなく、ひたすらその光景を見ていることしかできない。力なく膝を折ったエースが、弟に何か告げ、笑った。「エース?」私がようやく言葉を絞り出した頃、彼の体は地面に崩れた。

 あり得ないほど残酷な夢だった。寝起きとは思えない速度で心臓が脈打ち、指先が震える。とにかく早く会わなきゃと思う一心で転がるように家を飛び出した。
 パジャマのまま隣の家のチャイムを鳴らすと、扉の向こうから、気の抜けた返事と共に寝癖頭のエースが顔を出した。顔を見た瞬間、まるで陽炎の向こうにいるみたいにエースの姿が揺れ出した。否、気づけば涙で視界が滲んでいたのだ。
「どうしたんだよこんな朝っぱらから……」
 そう言いかけて、私の顔を見た彼は言葉を詰まらせる。とうとう耐えきれなくなった私が、存在を確かめるようにきつく抱きつけば、流石のエースも狼狽える様子を見せた。
「ちょ、オイ、一体どうした?」
 白いTシャツに顔を押し付け涙や鼻水の跡を付けているけど、文句を言うでもなく答えを待ってくれている。年甲斐もなくしゃくり上げる私は、数十秒時間を使ってここまでの出来事を反芻する。そうすると更に涙が出てきてエンドレスループだ。
「……エースが、死ぬ……夢、見て……怖く"て」
 つっかえながら正直に告げる。子どもみたいだと笑われてしまうと思っていたのに、予想に反してエースは小さく息を飲んだ後、私の背中にあたたかい手を回してぎゅうと力を強めた。
 ダイレクトに伝わってくる鼓動の音を聞くと、ようやく強張っていた気持ちが落ち着いてきた。
「それじゃ、“前回”を思い出したってことか?」
そうしているうち、エース越しに、この家に彼と共に住む、サボくんの声がした。我に返った私は慌ててエースの腕から抜け出そうとするのだが、拘束はちっともゆるまない。観念して涙声のまま返事をした。
「思い出すって……?」
「なんだ、違うのか」
「良いんだよ。覚えててもそうじゃなくても、こいつは変わんねェし、おれはこいつが好きだからよ。今度こそ幸せにする」
 分かるような分からないような話の内容を聞き顔を上げると、「な!」と同意を求めたエースが太陽のように笑う。その光景があまりにも幸せなもんだからまた泣けてきてしまい顔が歪んだ。
「おれァ今生きてんだからさ、もう泣くなよ。ブサイクになっちまうぞ」
 余計な一言を添えて私を見下ろしたエースは、どこか嬉しそうだった。



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