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他の男を牽制する大曲

過去リクエスト

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 パタパタ足音が近づいてきたかと思うと、他クラスの彼女が顔を覗かせた。キョロキョロと辺りを見渡し誰かを探している雰囲気だ。それを察して顔を上げた大曲は、その姿を見て片眉を上げた。
「なんだその恰好」
「やっほー竜次くん。似合うでしょこれ。うちのクラスは男装女装喫茶やるんだ」
 笑った彼女は男子生徒の制服に身を包んでいた。まだ間服の時期にも関わらずご丁寧に学ランまで着込んでいる。明らかにダボついたシルエットは、これが借り物であることを雄弁に語っていた。
「服に着られてんじゃねえか。誰の制服借りたんだよ」
「同じ部活の……あ!いた!」
 話の途中で彼女の視線が廊下の方へ回った。扉で影になっている方向から男の声が苗字を呼んだからだ。探し人はアイツか。特に気にするでもなく、大曲は作成中の買い出しリストに向き直ったが、その間にも二人の会話が耳に入る。
「……お前それ、結構似合うな。かわいい」
 少しの熱を帯びた男子生徒の発言を聞き、思わず大曲の眉間に皺が寄った。けれどそんなことはつゆ知らず、彼女は「ええっ、かっこいいって言うとこだよここは!」などと能天気な返事を寄越している。
 あまりの鈍さ、無防備さに頭が痛い。どうしたものかと考えているうち話は本題に入った。
「ただ、貸してくれたベルトが全然合わなくてさ。困ってるんだけど穴増やしても良いかな?」
「まあ良いよ。けど、」
「けど?」
「……その代わりに文化祭の日、俺と一緒に回ってくれない?」
 大曲はため息を吐いて立ち上がる。話し声の方に近づけばようやく顔を拝めた男子生徒と目が合った。
 その視線を追って振り向いた彼女を引き寄せるとその上着から男物の香水が香る。全くもって面白くない。
「悪いが、コイツは先約があんだわ」
 顔を強張らせる同級生を眺め、我ながら器の小さいことをしていると思った。けれど「私と回ってくれるの?」と頬を染めて目を輝かせる彼女の顔を見て、カッコ悪いことをした甲斐があったとも思うのだった。



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