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春の日と種ヶ島

プラスタグSS
 春めいた細い雨が今朝ようやく上がり、うららかな陽気の中そこらで芽吹きが始まっている。陽が傾いてもなお、空気にはぼんやりとした温かさの残る夕下がり。こんな日にはいつもより外を歩きたくなるというもの。
 修二の迎えを待ちきれず、校舎とは別に造られた運動部の部室棟の方まで出向けば、道すがらあちこちから悪戯な風がやわく吹いた。前髪を死守せんと慌てて俯いたところ、コンクリートの隙間から顔を覗かせるたんぽぽに気がつく。
 ぽこぽこと路を彩る花の中には、気の早い綿毛もちらほら。その白い頭を見て思い浮かべる相手は当然一人だけ。
 ふっとまた足早に風が過ぎ、それにまぎれて舞い上がった綿毛が私の眼前を越してゆく。遠くまで行くのだろうか。振り向いて目で追ってみても、もうよく見えなくなってしまった。
 こういうところも似ているかもしれない。彼がいつか「プロ選手になる」と言い出すんじゃないかと思っている私は、見えなくなった白を必死に探してしまうのだった。

「ちゃい⭐︎もしかして迎え来てくれたん?」

 ひとり立ち尽くしていたところに、私の頭を占めていた彼が覗き込むようにして現れた。適度に傷んだ毛先がまばらに光る。
 にこにこ上機嫌な様子を見て、今こうして一緒にいられるのだから寂しく感じる必要もなかったなと少し恥ずかしくなった。

「うん。今日あったかいから早めに図書室出て、修二のお迎えついでに花見してた」
「花見? たんぽぽで?」
「そう。綿毛見て修二の白髪みたいだなって思ってたところ」
「その言い方何とかならん?俺これオシャレで染めとるんやけど〜……」

 がっくり項垂れる修二の腕に自分のそれを絡め、笑いながら帰宅を促す。くっ付いていれば、センチメンタルな気持ちも徐々に溶けていく。
 すっかり元気を取り戻し足取り軽く歩みを進めようとする私をよそに、修二がはたと立ち止まる。
 どうしたのと首を傾げれば、空いていた片手が私の髪に伸びた。

「まあ確かに、こうして自分のところに飛んでいくんは俺みたいやけどな」

 浅黒い指に摘み上げられたのは、きっと先ほど私の周りを飛び回った白い綿毛のうちひとつ。彼はとびきり優しい顔で私と綿毛を見比べていた。
 遠くに行くのではなく、私の元に来るのだと。
 とんだ愛のささやきだった。赤くなっているであろう顔を隠すため絡めた腕の力を強めたが、もしかしたら何もかもバレているかもしれなかった。



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