
もう貘さんから逃げられない(usgi)
※台詞前の「あー…」が好きすぎるのテンプレ
1.思い出す
***
「貘さんって、どのくらいお金持ってるの?」
訊くと、貘さんはわざとらしく視線を上方へ飛ばす。
「あー…どうだったかな。ま、少なくはないよ。どうして?」
虚空をうろうろしていた瞳がやがて私へ収束した。どうして、と投げかけたわりには返答を確信しているような余裕のある笑みを口に浮かべている。
「金銭感覚が違いすぎて、たまにちょっと怖い。そういうのって大事だと思うし貘さんと私は合わないのかなって思ったりする」
こんな良いホテルの最上階に暮らしているだなんて。想像もつかない生活だ。ここに通されて初めて、考えてみれば貘さんについて良く知らないことに気がついた。優しい話し方をすること、知識が豊富であること、人の心を読むのが上手いこと、話をしていて楽しいこと。私が知っているのはそういう部分ばかりで、彼の仕事や生い立ちなんかを詳しく聞いたことはなかった。
だから急に怖くなってきた。好きだという気持ちはもちろんあるが、価値観も常識も大きく違うとしたらどこかのタイミングでお互いに疲れてしまうのではないだろうか。
しかし、貘さんは待ってましたと言わんばかりにそんな不安を軽く笑い飛ばした。
「あはは、大丈夫大丈夫。君一人の人生の責任取れるくらいは手元にあるからね。何も心配しなくていいよ」
「……ねえ、やっぱり怖いんだけど」
顔を引き攣らせる私の腰を抱き寄せて、彼が耳打ちをする。でももう離してあげないよ、と。
本気とも冗談とも取れない発言は恐ろしいはずなのに、何故だか貘さんから目を離せなくなってしまう。
もしかしたら私は、とんでもない男に絡め取られたのかもしれない。