
仁王と忙しない同級生(tns)
※台詞前の「あー…」が好きすぎるのテンプレ
5.例のやつ
***
パタパタと小走りで通り過ぎて行った女子の集団から遅れてやってきた××は仁王を見つけ安堵の息を吐いた。
「仁王、丁度いいところに。あのさ、」
「あー…言わんでもいい、分かったぜよ。例のやつの話じゃろ」
駆け寄ってきた彼女の言葉を遮り、身をかがめ声をひそめて内緒話のポーズを取る。すると××は分かりやすく混乱の表情を浮かべ首を傾げた。あまりにも期待通りの反応。仁王は笑いを堪えるため、口元に力を込めた。
「例のやつ?」
「覚えちょらんの?」
「え、何かあったっけ……大事なやつ?」
「……いや、なーんもないナリ。適当言うてからかっただけじゃ」
予鈴が鳴り出したので早々にネタバラシをしてやると、彼女はみるみる不機嫌になっていく。秋の空よりよっぽどコロコロ変わる表情は見ていて飽きないし、なにより揶揄い甲斐がある。
「あんたねえ……毎度毎度私で遊んで申し訳ないと思わないわけ?」
「全然」
「ロクデナシだなほんと」
口をへの字に曲げた××が、いまだ内緒話の距離にある仁王の額目掛けてチョップを繰り出す。仁王はその細腕を掴んで止め、代わりに無防備になった彼女の額を人差し指で弾いてやる。丸い頭が揺れた。
「あだっ、何で反撃すんの!」
「ちょっとしたスキンシップぜよ。お詫びにこれ一枚やるきに、そう怒りんしゃんな」
「え、いいの?ありが……アイタッ!」
パッチンガムの餌食となった××は目に涙を浮かべて指をさする。通算七度目のやりとりだと言うのに、騙され続けるのは逆に凄いのではなかろうか。一周回って感動すら覚えるほどだ。
「おまん、いっつも引っかかるのう……」
「も〜〜!腹立つ!何なの!最悪、もう良い」
染み入るように唸る仁王に対し、××は地団駄を踏みそうな勢いで文句を口にし踵を返した。
当初の目的をすっかり忘れていると見える。やれやれ、仕方がない。自分の奔放な態度を棚にあげつつ、彼女を呼び止める。
「ピヨっ。おい、待ちんしゃい。忘れ物じゃ」
「分かってたんなら最初から貸してよ!ばか!」
教科書を借りた分際で捨て台詞を吐いた彼女は移動教室先へ駆けていく。
忙しない後ろ姿を見送っていると曲がり角で振り向いた××が「ありがと!」としかめ面のまま大きく手を振ったので、仁王は思わず吹き出した。