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エースと勘違い(op)

※台詞前の「あー…」が好きすぎるのテンプレ
6.やらかした

***
断じてわざとやったわけではないが、能力の出力を間違えたエースが彼女の髪をいくらか燃やしてしまったのは紛れもない事実だ。幸いにも火傷はなかったようだけれど、それ以来ことごとく避けられている現状を見るに相手はかなり怒っていると推測された。

「あー…その、何だ。悪かった」
同じ船にいる者同士なのだからずっと顔を合わせないわけにもいかない。何とかアイツの機嫌が良くなりますようにと願いながら、エースはドアを隔てた向こう側へ誠意を込めて頭を下げた。
微かな足音が行ったり来たりするのを辛抱強く聞いていると、やがて扉が開いた。
「別に怒っちゃいねェんだと」
出てきたのはうんざりした顔のデュース。そしてその背に隠れる影がひとつ。怒っていないという割に会話すらしたがらないのか。気の長い方ではない自覚のあるエースは口をへの字に曲げる。
「何でお前が?ソイツが直接言やァいいだろ」
「泣いてるのを知られたくねェんだと」
「は?泣……?」
「デュース!!」
涙声の怒号が鼓膜を刺した。呆気に取られるエースをよそに、肩をすくめたデュースは「もう勝手にやってくれ」と言い残し早々に立ち去ってしまった。
デュースという絶好の盾を無くした彼女はフードを被り俯いたまま船体を打つ波の音を聞いている。それも時折鼻をすすりながら、だ。
どうした?何がお前をそこまでさせる?おれのせいか?どうしたら泣き止むんだ?
ぶつけたい質問はたくさんあるというのに、本当に泣いていたことがうかがえるその様子を見せつけられ言葉がうまく出てこない。
しかし、ここ数日自分の頭を悩ませていた張本人が何も言わないまま自室に戻ろうと踵を返したところで、慌てて華奢な肩を掴み引き留めた。
その弾みによりフードが落ちる。腰まであったはずの綺麗な長髪は跡形もなく、代わりに小作りの頭に沿うよう短く揃えられた襟足が揺れる。大きくイメージの変わった姿にドキリとした。
これまでは何となく髪が長いことを女らしいと認識していたエースだったが、考えを改める必要がありそうだった。しかし彼女はというと急いでフードを被り直したあと、言葉にならない声で唸り顔を覆う。
「なあ、髪のことは本当に悪かった。でもお前、短いのも似合ってるって!だから泣くなよ……」
「似合ってるの?」
言葉を聞き返したかと思うと、泣き声はさらに大きくなる。気の強いタイプの彼女がボロボロ涙を零すなど、考えたこともなかった光景にエースの焦りも増す。
「似合ってるっつったらダメだったか?!……あのよ、そもそも何で泣いてんだ?おれ、分からねェからさ、教えて欲しいんだが……」
「……だってエース、前に、髪の長い子がタイプだって……言ったじゃん……だから伸ばしてたのに……」
ハッと息を呑み、先ほどのデュースの捨て台詞を思い起こす。これ、そういうことか?
あまりの照れ臭さに、エースは後頭部をガシガシかいた。そもそもタイプの話を聞かれた時点で、彼女の髪は十分に長かったのだから。
「一番大事なのは、髪の長さじゃねェよ」
エースはそう言って、何度も目を擦る彼女の手を止めた。



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