そんな喧騒も笑ってあげる

 再建されたアパートのゴミステーションは四方が囲まれた部屋のようなつくりになっている。その扉に挟まれるようにして、二本の足が飛び出していた。

「……」

 あらまぁ怖い怖い。こんなところに落ちている人間なんてきっと不審者に違いない。触らぬ神に祟りなし。賢い私は黙って踵を返した。そうしたら、少しも触らなかったのに貧乏神がむくりと起き上がる。

「オイ待て待て待て! 久々に会ったってのに無視とか酷くね? 銀さん傷つくんですけど? 何かこう、言うことがあんだろ?」
「……………………誰でしたっけ?」
「えっ、冗談だよね?」
「あっ、もしかして地元じゃ負け知らずだった田中くん?」
「誰だよ、ちっげーよ! いやもう、そういうの良いから。頑張ってボケなくていいから。人見知りのお前がまともに返事してる時点で、俺のこと覚えてるのはバレバレだから」
「二年間も行方不明だったマダオなんて、私は知りませんけど」

 そう吐き捨てて防犯意識の高いオートロックのエントランスを通過したが、銀ちゃんは当然の顔をして私と一緒に自動ドアを通過する。は? おまわりさん呼んで良いですか?
 カルガモの子どものように後ろをついてくる銀色の天パに対し、私は大変腹を立てていた。
 だって二年だよ。二年。新八くんから、それとなく、ふんわりぼんやり、銀ちゃんには何か大事な大事なやるべき事が出来たからこの町を離れたのだと教えてもらっていたけれど、それにしたって彼女に対して別れの言葉一つ残さず二年もの間姿をくらますなんて、人としてどうなんですか。
 二年前の時点で私はいわゆる結婚適齢期というやつに頭から突っ込んでいたのに、肝心の相手が突然いなくなったときた。状況も飲み込めないうちに日常が戦火に巻き込まれ、町はめちゃくちゃ、帰る家は粉々。もはや銀ちゃんだけが頼りの私が、万事屋を訪ねて初めて「あなたの恋人は何処かに行ってしまいました」と聞かされて、どう思ったか分かる? まあ、恋人を捨てていった男に、捨てられた女の気持ちなんて分からないでしょうけど。
 でもちょっと考えてみてよ。そんなクソッタレのために私がこの二年を棒に振ったと思いますか? 銀ちゃんの帰りをただいじらしく待っていたと思いますか? そんなめでたい頭した馬鹿女がこの世にいますか?
 などと。聞こえるか聞こえないかの大きさでぶつくさ言う私の声をご丁寧に全部拾って、銀ちゃんはギョッとしていた。

「えっ、なに。お前まさか俺がいねー間に他に男作ったの?」
「他に男、ってなに?銀ちゃんに捨てられたんだから、私がどこで誰と何しようが、銀ちゃんには関係ないよね。てかマジで許可してないのにオートロック通んないで」
「……誰かとナニしたのか?」
「最低」

 銀ちゃんと会話してると、イライラする。結局銀ちゃんを追い返せなくて、部屋の前まで来てしまった自分にもイライラする。
 私が怒っているのは火を見るより明らかなのに、銀ちゃんはゴメンのひとつも寄越さない。マジでなんなのこの男。ダメンズにも程があるでしょ。いや、それは今に始まったことじゃないか。元からだった。
 銀ちゃんにもっと酷いことを言ってやろうかと振り向いて息を吸う。しかし、がっしりとした彼の肩越しに見えた光景にギョッとした。そうだった、銀ちゃんはとんでもないダメンズだけど、一方私は世紀のダメンズホイホイなのでした。
 慌ててくるり反転し玄関を開けようとしたのだが、焦りすぎて鍵が穴に入らない。ガチガチと金属音を立てていると、銀ちゃんは呑気に「どうしたのお前、情緒不安定? 今日二日目か?」なんて言ってくる。
いい加減、この男が帰ってきた時にぶん殴ってやろうとジムで鍛えた右ストレートやハイキックをお見舞いしたいところだが、本当に今はそんな場合ではない。

「うるさい早く帰って。早く」

 ようやく鍵が噛み合ってドアが開く。最低限の隙間しか開けずに中に滑り込んで閉めようとしたら、黒いブーツが邪魔をしてドアが閉まらない。いやもうほんと、そういう無駄な瞬発力発揮しなくて良いから。ジャンプ主人公かよ。

「イダダダダ! 足! オイ! 力尽くで閉めるんじゃねえよ! 俺のなっげー足が見えてない?! 挟まってんだよ! 閉まるわけねえだろ!」
「諦めたらそこで試合終了だよ!」
「何の試合?! 安西先生もこんなシチュエーション想定してねえよ。つーか俺の足が終了するわ! 責任取らせるぞオラ」
「臭い足終了させてあげるんだから有難く思いな!」
「えっ、靴越しなのに臭ってる?」
「何してるんですか?」

 ギャーギャー言い争う私たちの間に、落ち着いた穏やかな声が割り込んできた。一気に手汗が出て精一杯引いていたドアノブが滑った。かろうじて掛けていたチェーンがせめてもの救いだが、この男は最悪チェーンカッターを持っていてもおかしくない。
 警察、警察!

「男と女が揉めてんだ。そりゃあ犬も食わねー痴話喧嘩しかねえだろ」
「それはおかしいですね。ナマエさんとお付き合いしているのは僕ですが」
「エッ」

 びっくりしている銀ちゃんを尻目にバッグをがさごそ漁っていると、にっこり笑った男は「携帯をお探しですか?落ちていましたよ。ホラ」と言って銀ちゃんをぐいと押し退け隙間から顔を見せた。

「開けてください」
「ひえ……でっ、できません」
「何故でしょうか」
「へ、部屋が! とーっても散らかっているので!」
「知ってますから、大丈夫ですよ」

 いやそれ、全然大丈夫じゃねえだろ! えっ、ウソてかどういう意味?!
 私はすっかりパニックを起こしていた。目の前でニコニコしている人畜無害そうな男は、断じて私の彼氏などではなく、すごく・とても・かなりヤバい人間、つまりストーカーである。私と付き合っているなどと存在しない記憶を嘯くだけでも相当なイカれっぷりなのだが、この発言を否定すると逆上するという手のつけられない犯罪者予備軍である。ここ一年ほど付き纏われていたが部屋の前まで来られたのは二度目だ。あれ? これ予備軍じゃなくてもう犯罪者じゃない?
 前回警察を呼び、警官立ち合いのもと「あなたとはお付き合いしていませんしあなたに好意はありません」ときっぱり言ってお帰り願ったのに、全然理解してない反省してない! 何で私は、こんなのばっかり引いちゃうの? 二年間も音信不通のマダオを待ち続けためでたい頭の馬鹿女だから?
 いやもうほんと、何なのこの人生。完全に男運終わってるでしょ。前世で神に憎まれるようなことした? ヤバ、涙出てきた。

「なあ兄ちゃん、お前の彼女とやら、すげー怯えてねえ?」
「あなたには関係ありません」
「いいや、あるね」

 ストーカーがドアから遠ざかっていく。自我を取り戻した銀ちゃんが状況を察して男を引っぺがしてくれたようだった。ありがたいけれど、相手は刃物を持っててもおかしくないイカれっぷりだ。銀ちゃんは危ないお仕事に慣れているのかもしれないが、私は銀ちゃんを巻き込みたくないし、銀ちゃんに怪我をして欲しくない。
 数日前に起きたターミナルの破壊テロ現場に銀ちゃんが居たこと、今もまだ怪我が治りきってないこと、新八くんに教えられて知ってるんだよ。

「銀ちゃん、」
「ったくお前の男運どうなってんだよ。……しっかり鍵閉めて中入ってろ」
「でも、」
「いいから」

 外からドアが押されて、閉まった。外からは一方的に支離滅裂なことをまくし立てる声がする。
 どうか大事になりませんように。祈るしかできない私は目をつぶってドアに耳を寄せる。大きい物音が二、三聞こえたかと思うと、玄関がノックされた。ドアスコープを覗けば、ひらひら手を振るちゃらんぽらんの姿があった。
 ドアをそっと開ける。ストーカーは見事に伸びていた。

「怪我してない?」
「オメーの彼氏くんが? 俺が?」
「……その人彼氏じゃない。どうでもいい。できればもう一生起き上がらないで欲しい」
「起き上がれないようにしとく?」
「そんな二軒目行っちゃう? みたいなノリで聞くこと? 過剰防衛になっちゃうからしなくていい。……銀ちゃんは怪我してないの?」
「こんなもやしっ子のパンチなんて当たんねーよ」
「あっそ」
「ホラ、お前の携帯。あの様子じゃこいつどうせまた来るだろ。これ現行犯だし、俺も証言してやっからチンピラ警察にでもしょっ引いてもらえよ。まあアイツらが俺の言い分聞くかは知んねーけど」
「うん、ありがとう」

 受け取った携帯ですぐに警察へ連絡をとる。銀ちゃんと同じタイミングで江戸に戻ってきた真選組は、久々の仕事に張り切っているのか直ぐに行くと答えてくれた。局長がストーカーという訳の分からない組織だが、女に手を上げるタイプの男はきっちり処理してくれるはず。これで安心だ、多分。
 通話を切ると、ストーカーの背中に座っている銀ちゃんと目があった。はあ。大きなため息が落とされる。

「最初の依頼もストーカー退治だったの思い出したわ。マジでお前、こんなのばっかり引いてんな。二年もあったっつうのによォ、もっといい奴いなかったわけ?」

 やれやれ、なんて肩をすくめる天パ。私は、すっかり脱力してしまった。もっといい奴って、はは、うけるー。マジで馬鹿みたい。

「……いた。でも“もっといい奴”は二年も行方不明だったよ。私は毎日、今日は帰ってくるかも、明日こそ帰ってくるかもって期待して待ってて……。そしたらそこのストーカー男は、私が自分のこと待っているんだって勘違いしたみたいで。あーーー、ほんと信じらんない。二年だよ、二年。そんなさあ、待ってる馬鹿いないよ。……ここにしか」
「……」
「そんでようやく帰ってきたと思ったら、謝りもしないし、言い訳もしないし、説明もしないし、なんか、昨日も会いましたけど?みたいに話しかけ方してくるし。私はいつも蚊帳の外だし。会えて嬉しいけど、また何か怪我してるし。てかゴミ臭いし。天パだし死んだ魚の目してるし三十路だし足くさいし」
「最後らへん関係なくね? 泣いていい?」
「泣きたいのは、こっちだし……。わざわざ会いにきてさ、どうせ私のことなんて都合のいい女とでも思ってんでしょ」
「……」
「私がどんだけ銀ちゃんのこと好きかも知らないんでしょ。付き合ってたって言っても、ほとんど片思いみたいなもんだよ。私ばっかり好きなんだもん。あーあ、もう全部ヤになっちゃった。疲れた。銀ちゃんに迷惑かけた自分にも嫌気がさす。もうこの十代の思春期青春爆発みたいな気持ち抱えてる場合じゃないわ。今言ってること全部黒歴史すぎ。忘れようそうしよう。よし、結婚する。お母さんが、お見合いしたら?って最近よく言ってくるんだよね。だからもう、田舎に帰る。銀ちゃんは私以外の都合のいい女見つけてください。最後にわざわざ様子を見にきてくれてありがとう。ナマエは元気です。さようなら。おわり」
「作文?」
「ご清聴ありがとうございました。私先生の次回作にご期待ください。それでは〜」

 ガコンと音がして閉めようとしたドアが再び遮られる。もうこのくだりさっきやったじゃん。飽きたよ。さっさと試合終了して。
 隙間から伸びてきた銀ちゃんの手が、私の頬を擦った。もちろん、私がボロボロ泣いていたからだ。なんて重い女だろう。銀ちゃんのタイプじゃないなこれは。じゃあどのみち、いずれ振られてたってことだろう。ハイ、惨めになるのでこの話終わり!
 私は懸命にドアを閉めようと体重をかけているのに、それを片腕で防いで、器用にもドアチェーンを外していく。いやもうコイツ、ストーカーより怖くない? おまわりさんこの人も連れてってくださいって感じ。
 とうとうドアが開いた。でも銀ちゃんはストッパーにしていた足を引き戻してしまって敷居を跨がない。その距離がもどかしくて、また涙が出た。

「コイツ、またここ来るかもしれねーし、安全なところに引っ越した方がいいんじゃねーの?」
「オートロック付きマンションが安全じゃないのに、どこに行けってのよ。これ以上高い家賃払えない」
「安くて安全なとこがあんだろ」
「どこに」
「ウチ」
「はあ?」
「だーかーらー、万事屋に住めば解決だろ? 安心安全」
「さっきの結婚適齢期女の主張作文聞いてた?」
「長すぎて途中から寝てたわ」
「そっか、今のは寝言かあ〜」
「いや、今は起きてっけど」
「……あのさあ、マジでほんと、私は今超絶キレそうなんだけど、てかもうほぼキレてんだけど。銀ちゃんさあ、そんなことどの口が言ってんの?」
「二年だ」
「はあ?」
「二年も手前のこと想って待ってた女を、ほっぽり出せると思うか」
「いやもう待ってないし、別にそんな責任感求めてないからイイですノーセンキュー」
「ノーセンキューをノーセンキューするわ」
「銀ちゃん、いい? 落ち着いて聞いて欲しいんだけど、まず、銀ちゃんは私を置いて二年間どっか行ってました。そして私は二年間放って置かれてたった今貴方に愛想をつかしました。オッケー? だから私たちは晴れて破局することができました。これからは他人です。一緒には住めません」
「でもお前、まだ俺のこと好きじゃん」

 バコンと音がして、何事かと思ったら、私が持っていたバッグを銀ちゃんの顔に投げつけた音だった。あらまあ、体が勝手に〜! ……いやもう、ほんっと頭にくる。ナニコレ?

「たった今嫌いになった。これで満足?」
「イッテーな、満足なわけあるか。これ以上馬鹿になったらどうしてくれんの?」
「もう取り返しのつかない馬鹿だから大丈夫」

 だらりと滴る鼻血を雑に拭う男は他の追随を許さない世紀の大馬鹿野郎だ。こんなのにこれ以上構っていたら私の人生は滅茶苦茶になるだろう。まあ既にかなり滅茶苦茶だけども。
 地面に落ちた衝撃でカバンの中身は激しく散乱している。私の私物をまじまじと見つめた銀ちゃんは、その中から長財布を拾い上げた。音もなく招き猫の根付が揺れる。全部拾うんじゃなくて財布だけ拾うあたり、万年金欠のマダオらしいなと思う。二年間どこで何をしてきたのかは知らないが特に成長はないらしい。いっそのこと、全部まるっと別人みたいになっていたら良かったのに。

「勝手に盗らないで。返して」
「返してって、これ、お前さあ……」

 はあ。
 またもため息を落とし、銀ちゃんが招き猫をつつく。言いたいことは分かるよ。それは銀ちゃんがくれた物だもんね。ええ、長々と大事に持ち続けていましたとも。これがまた大好きな彼との縁を作るかもしれないなんて望み薄な願掛けをして。

「これも捨てんの?」
「……捨てられるわけないじゃん。二年って、私にとっては長い時間だったよ。でも、置いてけぼりなんて散々酷い扱いを受けたって銀ちゃんのこと嫌いになれない二年間だった。今更もっとろくでもないこと言われたって、一瞬で嫌いになれるわけないでしょ……ほんと馬鹿みたい」
「ふーん。じゃ、そんな大馬鹿女の相手なんざ、俺くらいの馬鹿にしか務まんねーなあ」

 眉尻を下げて情けなく笑った銀ちゃんが、私の頭を乱暴に撫でた。それを受け入れてしまっている私は、このままでいいのだろうか。会えなかったうちに思い出が美化されて、それに引きずられて流されているだけなのではないだろうか。この男の側に再び収まったところで、本当に幸せになれるのだろうか。
 自然と下がっている視線の先では、銀ちゃんのブーツが控え目に敷居を踏んでいた。微妙なバランスを保って、私たちはお互いにこの先の言葉を探している。
 乱された髪の隙間から赤い瞳を見上げると、彼は弾かれるように手を離し降参のポーズをした。

「私がその手を取ったら、ちゃんと幸せにしてくれる?」
「さァな」
「は? この流れでよくも、」
「話は最後まで聞け。いいか、こちとら金もねえし、平社員に降格しちまったし、多分迷惑をかける。お前の考えてる幸せが分かんねえから叶えてやれるとまでは約束できねー。ただ、ナマエが居てくれるんなら、俺は幸せになれる。俺を幸せにしてくれよ」

 ちっとも似合わない真面目くさった顔の銀ちゃんが祈るように言った。そういう言葉や表情に弱いって知っててやってるんだ絶対。
 この人のあざとい部分やズルいところ、きちんと分かっているはずなのに結局「…………まったく、銀ちゃんは本当にしょうがないな」なんて返事してしまうところが、私がダメンズホイホイたる所以なんだろう。


 威勢の良いサイレンを鳴らし明らかに法を無視したドライブテクニックでやってきた真選組は、倒れた男と鼻血を出すちゃらんぽらん侍と泣き腫らした顔の私をぐるりと見回して眉根を寄せた。
 副長の土方さんがタバコの煙を吐きながら私に問う。通報したのはアンタか? こりゃ、どっちがストーカーだ? と。
 彼と犬猿の仲である銀ちゃんが青筋を浮かべ歯を剥き出しにし始めたので、私はそれを制して迷いなく答えるのだった。

「あ、両方連れてってください」
「はあ?! 今完全に和解した俺たちが改めて仲を深める流れだったろ?!」
「暴れんな。行くぞ」
「まずは豚箱で反省しろ」
「えっ、これマジのやつ?」

 ストーカー男は気絶したまま担がれて行って、銀ちゃんは上機嫌の土方さんに手錠までかけられて部下二人がかりで連行されていく。かなり反抗している様子だが、力尽くで脱走するつもりはないらしい。長い付き合いなだけはある。この後どういう流れになるかがなんとなく分かっているのだろう。
 その場に残った副長さんに事の顛末を説明すると、彼は短くなった煙草を携帯灰皿に押しつけながら、そりゃあ災難だったなと労いを述べた。災難がストーカーを指すのか銀ちゃんのことを指すのかは分からないが、どちらの意味も含んでいるのかもしれない。
 ストーカー男については、前回対応してくれた見廻り組の方にも確認を取った上で扱いを決めるが、十中八九もう私にちかづくことはないだろうとのことだった。一体何を持ってそんな約束ができるのかとやや疑ってしまったが、それを実現してしまうのが“チンピラ”警察ということか。ひとまず話が纏まったので、三本目の煙草を短く燻らせている土方さんへ感謝を伝えて頭を下げる。

「前科持ちの方はともかく、万事屋の方はどうせすぐ釈放だろうよ。アンタらがどうなってんのかは知らねえが、あとで迎えに来てやれよ」

 驚くほど面倒見の良いおまわりさんはそう言い残し去って行った。
 人の消えてがらんとした通路で散乱したままだった荷物を全て拾い集め、見事願掛けを叶えてくれた招き猫を握りしめる。まずは契約書を探して、少しずつ荷物をまとめよう。これからうんと騒がしく忙しく、そして楽しくなるに違いないのだから。

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