かわいいあの子
「なあ、俺のジャージ知らへん? ……って、あら」
種ヶ島は慌てて口をつぐみ、スマホのカメラを起動した。部屋着にしていた昔のジャージを探しに来たのだがそれどころではなくなってしまった。ベッドで丸くなっている彼女が自分のジャージに包まっていたのだ。
意図してそうしているのか、単に手近なものを布団代わりにしたのかは定かではないが、普段素っ気ない態度をとることの多い恥ずかしがり屋の彼女が自分の服の下で気持ち良さそうに眠っている姿はあまりにもレアで、文句なしに可愛かった。
消音カメラで恋人の寝姿を撮影した種ヶ島は、丸まっている彼女にもう一枚布団を掛けてやる。夕方になり気温が下がったため寒かったのだろう、縮こまっていた手足が少し緩む。モゾモゾ動きながらもジャージの袖口だけはしっかり握っている様に、口元の緩みを抑えきれない。
「自分、俺のこと大好きやんなぁ」
ポツリとつぶやいても返ってくるのは寝息だけ。本音をいうと、隣に潜り込んで自分も一眠りといきたかったが、そうしてしまえば起きた時彼女が大騒ぎするのは目に見えている。まだ起きる気配のない横顔にキスを落とし、種ヶ島は寝室を後にした。
§
突然名前を呼ばれた種ヶ島がソファーから起き上がると、目の前にやってきた彼女は種ヶ島のスマホを印籠の如く掲げて見せた。
「どないしたん?」
特にやましいこともないので慌てるでもなく首を傾げかけたが、そのロック画面を見て合点がいった。先日撮影した彼女の姿を壁紙に設定していたのがバレたようだ。通りで恥ずかしがり屋がご立腹なわけだ。
「これ、何」
「ん? どっからどう見ても、俺の愛しの彼女やな〜」
「怒るよ」
もう怒っとるやん、と。膨れっ面が可愛くて、思わずニヤニヤ頬が緩む。そうすると今度は彼女の眉間に深い皺が寄った。
「信じらんない。盗撮は消します」
「決定事項かい」
言うや否や細い指が画面をタップし始める。ロック解除の数字はもう随分前から彼女の誕生日に設定していて、それは二人の間でも共通認識だ。
このままでは本当に削除されるだろう。種ヶ島がスマホを取り返そうと手を伸ばすと、目ざとく気付いた恋人はそれをかわすように背を向けた。それがこちらにとってむしろチャンスになってしまっているのに気付かないあたりがまた可愛いところなのだった。
「あかんあかん。こーんな可愛いのに消してまうとか勿体無い」
「ちょっと!」
後ろから抱きすくめるように腕を回せば、発端のスマホを奪うことなど簡単。腕の中でゴソゴソともがいてるようだが、力の差は歴然でそれを閉じ込めてしまうのも容易かった。
「修二マジ邪魔。どいて」
「えー、冷た〜!」
腕の中で凄まれたところでもちろん威厳などはなく、むしろ長い付き合いなのにいまだに耳を赤くするところが愛しい。だからついつい、揶揄ってしまうのだ。
「そんなこと言うても自分、ジャージ独り占めするほど俺のこと大好きやんな?」
「……」
「お、ぐうの音も出ん?」
「……そりゃ大好きじゃなきゃ一緒にいないよ!」
意地悪を仕掛けると、ヤケクソの開き直りが返ってきた。日々可愛いを更新し続ける彼女のつむじにキスをして、種ヶ島は「俺もやで」と笑い声を上げた。