体育祭でモテる彼氏に嫉妬する話
行列に次ぐ行列。女の子ばかりの集まりの先には修二がいて、代わる代わるやってくるツーショットのお願いに快く応えていた。
パシャパシャと音は鳴り止まず、眺めているうちになんだか音が耳元でしているような気分にすらなる。
「ジェラシー?」
「うわっ」
アイドルの撮影会さながらの状況を、体育祭のため建てられた仮設団席の上段から窺っていると、いつの間にか隣に座っていた入江くんが眼鏡の奥で好奇心をキラキラ光らせていた。面倒な相手に見つかった、と思ってももう遅い。彼は私の眉間を指差す。そんなに険しい顔をしていたのか、私は。
「ま、彼氏があんなにモテモテだと面白くないよね」
「そんなこと思ってないし……」
「そう? だとしたらすごい演技力だ」
修二に負けず劣らずの眩しい笑顔を浮かべる入江くんに私が返せるのはしかめ面だけである。そしてこのリアクションがまた彼の言葉を肯定してしまっていると気付き頭痛がする。
ため息の先では更に伸びた行列が見える。体育祭の目玉の応援合戦で応援団をすることになっている修二は、弓道部から借りたらしい袴を履き、衣装係が丹精込めて作ったブルーの法被のようなものを羽織っている。団色に合わせた配色は、普段見慣れている制服やジャージ姿とはまたガラッと印象が変わり、特別感があった。あそこまで人気になるのも頷ける。
「キミも並んできたら?」
「嫌だよ。あの列に私が混ざったら嫌味ったらしくなるじゃん」
「絶好の機会なんだから、ライバルたちを蹴散らしちゃいなよ」
「入江くんって結構過激だよね」
「情熱的って言って欲しいな」
ものは言いようだ。思わず笑ってしまうと、すかさずシャッター音が鳴る。止める間もなく、だ。
「白昼堂々盗撮?」
「良い顔してたから、修さんに送ってあげようと思って」
「やめて」
「ダメ? それなら今のは消しておくね」
「……今のは、ってどういうこと?」
「お二人さんみっけ!」
何やら含みのある発言を問い詰めかけていたところ、会話を遮る声がした。顔を向けなくても分かる。修二の声だ。
返事の代わりに目下の撮影会会場を確認すると、まだ残っている女の子たちと目が合った。撮影を中断されたようで、かなり不満そう。ピリピリ物言いたげなオーラにたじろぐと、動きにくい恰好でわざわざ団席を登ってきた修二が私と同じように下を覗き込む。
「なるほど、こっからよーく見えるなぁ」
「皆まだ待ってるよ。写真撮ってあげなよ」
「あの子らには悪いけど、俺の彼女が妬いてるて聞かされたらそっち放っておけんやろ?」
「なんて?」
聞き返せば、イキイキした顔でスマホを渡される。メッセージアプリに表示されているのは、私の横顔。口をへの字にし明らかに拗ねた表情をしているので、さっきの盗撮写真とは絶対別物だろう。しかもご丁寧に「修さんの彼女、ヤキモチ妬いてるよ」なんて解説付きだ。
メッセージの送り主はもちろん入江くん。彼が話しかけてくる直前に聞こえたシャッター音はどうやら幻聴ではなかったらしい。
思わず非難の声を上げたのだが、当然ながら入江くんはとっくに退散しており元いた場所はもぬけの殻。ああ、やられた。
「嫌な思いさせてもうたなぁ、すまん」
「別にそんなんじゃ……」
「ハハ、証拠写真あがってるんやし流石にその嘘は苦しいんちゃう?」
ごもっともな指摘に閉口。わざとらしく渋い顔をしてやれば、修二もそれを真似るように唇を尖らせた。
また人を揶揄って……。そう小言の一つでも言ってやろうとため息をついた私に、彼がささやく。
「なあ、俺の知らんとこであんま可愛い顔せんといて。あーんなヤキモチ顔、俺かて見たことあらへんのに、奏多だけずるいわ」
「……ええ?修二でも妬いたりするんだ……」
「そらそうやろ〜!」
こんな可愛い子が彼女やねんで?と張り切って念を押すことで、逆に嘘臭くなっているのが笑えた。そして、この少しの会話でまんまと機嫌を直す自分の単純さにも笑える。
「さーて、しかめ面が直ったところでもう嫉妬せんでええようにめっちゃツーショット撮ろな」
そう笑って、修二が私の肩を抱き寄せた。実に手慣れた、スムーズな動き。もしかしたら写真を撮りたかったのは彼も同じだったのかもしれない。
嬉しくなって思わず、バッチリカメラ目線をきめてスマホを構える修二の頬に唇を寄せた。シャッター音が響くと同時に隣から驚嘆の声が上がる。ついでに、下の方からは悲鳴も。果たして、ブレずに写ったかどうか怪しいところ。
「今のって!?」
「うん、ほっぺちゅーした」
「今日めっちゃサービスええやん!どうしたん?」
「情熱的って言って欲しいんだけど……。今日の修二の恰好カッコいいから、他の子に牽制」
「……アカン、嬉しすぎる。衣装係に足向けて寝られん」
頬を抑えて喜ぶ様子が正直かわいい。素直になるのもそう悪くないかもしれない。
そう感じつつも、「写真ブレたから、もう一回!」とのリクエストは首を横に振って却下。慣れないことをしたせいで顔が熱くてたまらない。だから、今日はもう無理。
火照りを誤魔化すため手で顔をあおいでいると、私の名前を呼んだ修二に手首を捕えられる。優しく引き寄せられ、気づけば彼のしたり顔が目の前に。
「俺も他のヤツに牽制、な」
あっと思う間も無く、私たちの距離はゼロになった。