かわいいと言われたい種ヶ島
日記のように自撮り写真が送られてくるのは相変わらずだが、最近は見慣れない顔との集合写真がちらほら混じっている。中にはかなり小柄な子もいて、彼らがたぶん中学生選抜というやつなのだろうと容易に予想はついた。
日本代表候補に選ばれるくらいだから皆きっと凄いテニスプレイヤーに違いないが、オーバーサイズのジャージをダボつかせている様子は初々しくもあった。修二が時たま話題にあげるリョマ吉くんもこの中にいるのだろうか。ひとりひとりの顔を順にズームアップして眺め、一周すると修二の小慣れた笑顔に戻った。
共通の目的のもと、大人数でワイワイやっている姿はずいぶん楽しそうに見える。もちろん、少ない代表枠を奪い合うのだから楽しいばかりではないだろう。けれど、同じ時間を過ごせていることが羨ましく思えて仕方がない。
私だって修二に会いたいんだけどな。じわじわ穴が広がるように寂しさが侵食し指先が冷える中、それを紛らわせるように液晶をなぞった。
“噂の中学生?かわいいね”
当たり障りのないメッセージを送れば、既読がついてすぐに呼び出しがかかる。
前に聞いた消灯時間まではあと10分足らず。たったそれだけでも声が聞けると嬉しいのはお互い様だということか。数秒すら惜しく、駆け引きのかの字も忘れて即答すれば、お疲れ様の挨拶もないまま彼の拗ねた声が鼓膜を揺らした。
「俺もかわええと思うんやけど?」
私よりもずっと背の高い修二が、唇を尖らせ自分を指差す姿がありありと目に浮かぶようだった。
かわいい?……修二が?
あまり上手く結びつかない要素が並んだため、面食らい黙り込んでしまった。けれど、形容し難い沈黙にも一切怯まないハートの持ち主である彼は「おーい、聞こえとる?」と私の返答を促すばかり。
「聞こえてる。なにも中学生相手に張り合わなくても……」
「いやいや、好きな子からの褒め言葉は独り占めしたいもんやんか!」
「……そう」
好きな子、の一言が私の中の小さな寂しさを華麗に埋めた。思考が口に出ていただろうかと心配になるほど鮮やかに、そして惜しげもなく欲しい言葉をくれる。
例えこちらがそっけない態度を取ろうとも修二のスタンスは常に変わらない。こうしてプレゼントのように言葉を受け取るたび改めて好きだなあと思わされ、おかげで寂しがりの私でも遠距離恋愛に耐えられている。
この素直さは見習うべきだろう。弛みかける口元を引き締めながら、先の沈黙中によぎった答えをそのまま返した。
「でも残念ながら修二のことかわいいと思ったことないよ」
「え〜、つれんな〜」
「私、いつも修二のことはかっこいいなって思ってるからさ。そもそも、かわいい人じゃなくてかっこいい人が好きだし」
今度は向こうで小さく息を飲む気配。それを察し、いよいよ我慢できず表情が崩れた。
言葉を贈ると、贈った側も幸せになれるというのは彼と付き合い出してから気付かされたことだ。
「……あかん、会いたなってきてもうた。ドキドキして寝られへんわ」
「もう消灯時間だよ」
「つれんな〜!」
さっきよりひときわ大きい嘆きが響き、私はそれに笑い声を被せる。
「あはは、代わりに明日もまた電話して欲しいな」
「ええよ、いくらでもかけたる。なんや、寂しいのは俺だけかと思うてたわ」
「そんな訳ないでしょ」
だから早く帰って来てねと続けかけた本音は、短い葛藤の末飲み込んだ。寂しいのも本心だが、テニスを頑張って欲しいとも心から思っている。余計な一言で、努力の邪魔をしたくはない。
けれど。
「一番かわええのは中学生でも俺でもなくて、俺の健気な彼女っちゅーことやなぁ。悪いけど、もう少しだけ待っとってな」
せっかく隠した揺れる気持ちを正確に汲み取られたようだ。優しい声を聞きながら、私よりうんと余裕のある彼のことをやはり心底かっこいいと思うのだった。