完璧な朝の作り方
休みの日の朝にちょっとだけ早く目が覚めた。今日の朝ごはんは……。しばし思案した後、隣で猫のように丸まっている彼を起こさないようベッドから抜け出した。
鼻歌混じりにホットケーキを焼いていると、仁王がのそのそ起きてきた。相変わらず朝には弱いようで、「ホットケーキ……」とのつぶやきを残し洗面所へ引っ込んでいく。その間にも一枚また一枚とホットケーキを積み上げていると、さっきより少しだけ目の開いた仁王がキッチンにやってきて、会話もそこそこに焼き上がったホットケーキをひと口つまみ食い。
「あー! 私が私のために焼いたのに盗まれちゃった! あ〜あ〜!」
もちろん彼の分も焼いていたが、当て付け混じりに冗談を言って笑うと、眠たげに目をしばたたかせつつ仁王もニヤリ。
「うるさい口は塞いじゃる」
ひとかけのホットケーキを口に突っ込まれ共犯にされた。うーん、うまく焼けてる。私がもぐもぐしながら、残りの生地を焼いてる間に、何も言わなくたって彼が食器やコーヒーを準備してくれる。流石の以心伝心だ。
私の少しの早起きのおかげで、絵に描いたような完璧な朝になったと言えるだろう。
翌週。
目覚めると隣に仁王がいない。布団にはひとり分の暖かさしか残っておらず、その代わりキッチンから甘くて良い匂い。
そろり音を消してキッチンまで辿り着くと、ボリューム感のあるパンケーキが皿に鎮座していた。流しにはハンドミキサーのビーターが横たわっていたものだからアッと声を上げてしまった。
それでもフライ返しを持ってフライパンに視線を注ぐ仁王はこちらに一瞥もくれず。しかし口許はやさしくゆるんでいる。
「おはようさん。これが最後の一枚やけ、盗み食いは諦めて顔洗ってきんしゃい」
「スフレパンケーキじゃん! メレンゲ用意したの? 朝から?」
「食いもんの恨みは怖いきに。先週のをチャラにしてもらわんといかんからのう」
そう言われてようやく先週のやり取りを思い出した。彼はくだらない戯れにステキな意味を持たせるのが上手すぎる。
「そんなに食いしん坊じゃないんですけど〜」
「ハハ、冗談。かわいい彼女の喜ぶ顔が見たかっただけぜよ。ほら、行った行った」
ひらひら手を振りキッチンから追い払われる。大人しく従いかけた私は、ハッとして再度仁王に向き直った。
「ねぇ、今週も完璧な朝になって嬉しい。ありがと」
「どういたしまして。その顔が見れて俺も何よりじゃ」
今度こそ目が合う。ジャムのように甘い視線はどれだけ浴びても飽きることがないなと思った。