13話 部屋探しとクリスマス
13話 部屋探しとクリスマス
あれから3日後、僕はとあるカフェで春樹さんを待っていた。
ランチをしてから物件を探しに不動産屋に向かうのだ。
僕は今日は一日オフだったけど、春樹さんは朝から専門学校に用事があるみたいだった。
「(なんか、緊張する……)」
二人で作詞したりすることもあるのに、今日はやたら緊張していた。
最初、僕が春樹さん達の部屋に引っ越して、秋斗さんが雅さんの部屋に引っ越そうかという話になったのだが、家具家電はそのままでいっそ新しく部屋を変えようぜという秋斗さんと春樹さんの提案で新居探しをすることになった。
雅さん達は今度の秋斗さんの休みに探しに行くらしい。
「洵!悪ぃ待たせたな」
「い、いえ大丈夫ですよ!」
落ち着きなくキョロキョロしていると、いつもみたいな男性的のファッションじゃなく、スチームパンク?というような格好だけど女性的なスカートを履いた春樹さんが慌てた様子でやってきた。
相変わらずピアスやらネックレスやら指輪やらでちょっと騒がしいけど、メイクもいつもより女性的だった。
「なんか今日いつもと感じ違いますね」
「あー、ショップの最新作なんだけどたまにはこんなの着ろってクリスマスプレゼントだっつって泪に渡された」
頭を乱暴にかいてからコートを脱ぎ席につく春樹さん。
「似合ってますよ。とても可愛いです」
「はぁ?!か、可愛くねぇよ!!」
春樹さんは顔を真っ赤にする。
可愛いって言われ慣れてないのかな?
……可愛い。
そんな真っ赤な春樹さんは視線があった店員さんを呼び、僕達はランチを注文する。
春樹さんは本日のランチセット、僕はボンゴレビアンコパスタ、そして僕達は食後にバニラアイスを頼んだ。
「お前パスタばっかだよな」
「パスタ好きなので」
「ほっといたらコンビニのパスタばっか食うだろ」
「うっ」
悪戯っ子のような笑みの春樹さんに反論できない。
この間も雅さんにも「パスタばかり食べるな」と注意された。
だってコンビニのパスタ美味しいし廃棄勿体ないし……。
「まあ、俺これでも料理得意だから」
「そうなんですか?」
「秋斗がてんでダメでな。あいつも偏った食い方しかしないから自然と」
「じゃあ、秋斗さん達が心配だなぁ。雅さんも料理あんまり得意じゃないから」
実は雅さんもあまり料理は得意じゃない。
僕みたいにコンビニのパスタばかりじゃないけど、大抵スーパーのお惣菜とか冷凍食品とかで済ます。自炊は滅多にしない。
「まあ、子どもじゃねーし、なんとかするだろ」
「丸投げですね」
「あのバカップルのことはもう知らねぇ」
「あはは」
完全に丸投げした春樹さんを見て笑っていると、春樹さんはふと優しい笑みを浮かべた。
ドキリ……。胸が脈打つ。
「やっぱりお前は笑顔がいいよ」
「……春樹さん達のおかげです。ありがとうございます」
僕が笑えるようになったのは、他人を信用出来るようになったのは、生きたいと思うようになったのは全部全部貴方のおかげだよ。
春樹さん、貴方が、好きだ。
もしかしたら認めてくれたことが嬉しくて勘違いしてるだけかもしれない。でも泪さんにはこんな感情湧かない。
貴方を、守りたい。
「俺達はなにもしてねぇよ。でも、ホントよかった」
「……っ」
好きだ。
思わずそう伝えそうになった。
こんな気持ちは隠し通さなきゃならないのに。
僕じゃ春樹さんには釣り合わない。
「お待たせしました〜!」
そうこうしていると昼食が届けられる。
本日のランチセットはエビフライがメインだった。
それにサラダとスープとライスが付いている。
とても美味しそうだった。
他愛ない話をしながらランチを済ましデザートのバニラアイスも平らげる。
暖房の効いた部屋で食べるバニラアイスより罪なものはないだろう。
「じゃあ、行くか」
「はい」
そしてレジで少し支払い攻防する。
春樹さんが奢ると言い、僕は僕が払うと言う。
少し攻防して僕達は店員さんが迷惑そうな顔をしている事に気づき結局別々に支払うことになった。
近くの不動産屋に向かう。
「いらっしゃいませ、どうぞこちらに」
僕達は勧められてカウンターに向かう。
不動産屋の人に恋人かと聞かれ僕は動揺して思わず挙動不審になる。春樹さんも一瞬動揺してたがすぐ飄々とかわしていた。
僕達の条件は2LDKで家賃13万程度、2階以上、エアコン付き、室内洗濯機置場あり、オートロック。
このくらいだろうか。
条件にあった物件をいくつか画面上で見て、ちょうど春樹さんの通う専門学校に近い物件があったのでその2ヶ所を見学することにする。
春樹さんは僕の仕事場から少し遠くなるのではと心配してくれたが、大丈夫ですよ、と答えた。
2ヶ所を見学して、駅にもより近い方を僕達は選び、その場で契約した。
即入居も出来たが、秋斗さんと雅さんの新居もまだだし年明けに入居することにする。
「いいとこあって良かったな」
「はい。でも、春樹さんは本当に僕と二人暮らしでいいんですか?」
「俺はお前が嫌じゃないならいいよ?それに秋斗達には悪いと思ってたんだよ。俺がいたら自由に会えなかっただろうし」
まあ、会ってたけどと春樹さんは笑う。
「僕で大丈夫でしょうか……」
「んー、お前も男だし大丈夫だろ」
「別の問題も出てきそうだけど……」
やっぱりバンドは人気商売だしまずかったかなぁ……。
「……俺は、お前がいいよ」
「……え??」
一瞬、春樹さんが何を言ったのか理解できなかったけど、少し思考停止してからそれが「俺はお前がいいよ」という言葉だったことに気づいて僕は動揺する。
でも、深い意味は、無い、よね??
「さてと、帰ろうぜ」
「は、はい……」
僕は春樹さん達のマンションへ春樹さんを送って、別れる。
今日はずっとあの言葉が頭から離れなかった。
「玖木君、お疲れ、今日は助かったわ」
「いえ、お疲れ様でした。お先失礼します」
クリスマス。
僕は丸一日レンタルショップで働き、今、仕事を終えた。
今日はやはりクリスマスで、カップルや家族連れが結構多かった。
「……ぅ……寒、……って、春樹さん?」
「……よう」
店の外に出ると春樹さんが、いた。
僕を、待ってた??
「どうしたんですか??」
「……いや、今日此処でバイトだって聞いてたから、なんとなく、その、お前の顔が見たくて」
「……え、あ、あの……」
春樹さんの真意は見えない。
だけど、その言葉が僕はとてつもなく嬉しくて。
「(……あれ?)」
そして、店の漏れる明かりに照らされた春樹さんの頬が腫れ、口元が切れている事に気づいた。
「それ、どうしたんですか?」
「……いや、ちょっとぶつけてな」
ぶつけたにしては不自然な位置。
まるで、殴られたような、跡。
「手当します」
「……さんきゅ」
今日の春樹さんはいつもより元気がない。
少し前を歩く僕にとぼとぼとついてくる。
何かあったのだろうか。
とりあえず、僕達の部屋の方が近かったので帰って手当てをする。
やっぱり殴られたような跡だった。
誰かと喧嘩でもしたんだろうか。
手当て中も春樹さんはずっと静かだった。
「……春樹さん」
「……ん?」
「これ、クリスマスプレゼントです」
僕はいつかのリストバンドのお返しに渡せたらとカバンに入れていた包みを春樹さんに渡す。
少しでも、気が紛れるなら、と。
「……開けていいか?」
「はい」
それは、ブラックジルコニアのピアス。
この間出かけた時に見つけて、春樹さんに似合いそうだと思い思わず買っていた。
春樹さんは切れ長の瞳を一瞬見開き、そして、
「……はるき、さん??」
「悪い。ちょっとこうしてて……」
僕に抱きつく。
僕は突然の事で戸惑ったけど、春樹さんが、この愛しい人が儚く消えてしまいそうで必死に抱きしめるしか無かった。
ーつづくー