17話 大阪2日目と、再会。そして……
17話 大阪2日目と、再会。そして……
あの後、僕達はそれぞれの夜を過ごし次の日は大阪観光をする。
でも、朝、春樹さんに秋斗さんから電話が来て、秋斗さんと雅さんは少し遅れて出るらしい。
春樹さんが「ヤリすぎんなバカかお前は猿か」と秋斗さんを罵倒していて、なんとなく僕も理由を察した。
でも、春樹さんは嬉しそうだった。
あの2人が元鞘に戻って、僕達は、安心した。
僕は残された4人で観光するのだと思っていたけれど、灰さんはもう帰るといい、泪さんに至っては最寄りまで«ジェミニ»の拓也さんが迎えに来ていた。
彼は夜行バスで急遽こちらに来て2人で観光して帰るのだそうで。
2人は寄り添って人混みに消えていった。
灰さんはそれを微笑ましそうに見つめている。
どうして拓也さんが?
と疑問符を飛ばしていると、春樹さんが
「……まあ、色々あったんだよ」
と不貞腐れたように呟いた。
「じゃあ、アタシはハニーのとこに帰るわねん!」
「おう、土産買ったか?」
「新幹線乗る前に買うわ!じゃあ、2人とも楽しんでね!!」
灰さんはいつも通りグレーゾーンを演じながら手をブンブン振って駅の改札をくぐっていった。
僕達は駅前にポツンと取り残される。
……春樹さんは僕と一緒で楽しめるのだろうか。
「……洵」
「……はい」
僕は身構える。
「……昨日、その、雅とどこに行った?」
「……え?」
思わぬ発言に僕は困惑する。
僕があまりになにも言わないので春樹さんは痺れを切らす。
「……なんだよ、言えねーようなとこ行ったのかよ」
「い、いや、天保山の、海遊館に」
「……デートかよ」
「……えー」
春樹さんが、いつもと違う??
最初のようなガンガン距離を縮めてくるそれとも、最近の僕を近づけまいとするそれとも違う。
僕との距離を取りあぐねてるような、それでいて、距離を縮めようとしてくるような……?
昨日、泪さんと何かあったのかな??
「……行くぞ」
「へ?」
「……海遊館、俺も行きたい」
つい、春樹さんを抱きしめてしまいそうになった。
僕の手を引っ張り、拗ねたように唇を尖らせて顔を少し赤らめる彼女が、とても愛おしいと、思った。
僕は泣きそうになるのを頑張って引っ込めて、満開の笑顔で、
「行きましょう!!」
と言った。
彼女は花の綻んだような優しい笑顔で頷く。
ああ、春樹さん。
貴方が好きだ。
貴方の笑顔が、好きだ。
僕達はスーツケースをコインロッカーに一旦預け、地下鉄に乗る。
その間もずっと手を繋いでいた。
春樹さんの手はやはり小さくて、細くて、華奢で、彼女が女性なんだと再確認させられる。
「……洵って意外に手でかいよな」
ポツリ、春樹さんが零す。
「……まあ、男ですから。これでも」
「……そだな」
ゆっくりとした時間が流れる。
地下鉄の乗り換えでホームで2人寄り添い待っていると、後ろの方から「あの2人、男同士?」「え?右の子女の子やで」と噂されていた。
恥ずかしいけど、でも、繋いだ手を離したくない。
少しまた地下鉄に乗って最寄りに着く。
駅を出ると何人か、外国人さんも含め同じ方向に向かって歩き出す。
「こっち?」
「はい」
僕達はその人の流れに流されるように歩く。
道沿いにある店を見ながら、街を歩いている散歩中の犬を愛でながら、僕達は笑い合う。
とても心地いいと思った。
少しして、大観覧車が見えてきて、そして、海遊館本館も目の前に現れる。
おお……!!春樹さんは感嘆のため息を吐く。
「洵、写真撮ろうぜ」
「はい!」
ジンベイザメのモチーフをバックに何枚か春樹さんのiPhoneで撮り、僕のスマホにLINEで送って貰う。
僕達は普通に笑えていた。
昨日に比べ少し混んでいるようなチケット売り場でまた攻防戦を繰り広げる僕ら。
春樹さんがチケットを払うといい、僕が、いや僕が払うと言う。
激しい攻防戦の末、決着がつかず結局別々に払うことになった。
チケットを買うために離れていた手は、春樹さんが「……はぐれると嫌だから」とまた繋いだ。
僕もぎゅっと握り返す。「バカ、痛てぇよ」と春樹さんは笑う。
暗闇の中、何も話さず僕達は魚達を眺める。
でも、それだけで、幸せだった。
昨日、雅さんが静かに泣いたあの場所に着く。
「……洵、あそこ空いてるから座ろうぜ」
「はい」
ちょうど昨日と同じ場所が空いていて、僕達は並んで座る。
時間を忘れてぼーっと魚達を眺めた。
少しして、春樹さんが口を開く。
「……ごめんな」
「……何がですか?」
「あー……うーん、秋斗たちが騒がせたし、俺も、変な態度とったし」
春樹さんは空いてる方の手でまた頭をガシガシ乱暴にかく。
仕方のない癖だな。
「……もう、春樹さんも大丈夫ですか?」
「……泪に喝入れられたから」
「……さすが泪さん」
僕達は笑う。
もう、大丈夫。
大丈夫だ。
僕達は、大丈夫。
「行きましょうか。お腹すいたし」
「だな」
僕達は急ぐわけでもなくゆっくり水槽を眺めながら順路をまわる。
出口が見えて、触れ合いコーナーで少し触れ合って、ショップでお土産を見繕う。
僕達は揃ってジンベイザメのぬいぐるみを買った。
そして、外のショップで秋斗さんと雅さん用のお土産と仕事先用のお土産を買って、併設しているショッピングモールでご飯を食べた。
大阪に来たらお好み焼きはやはり外せなくて僕達は迷わずお好み焼き屋さんに入る。
店内に«sins»のファンがいて、春樹さんは少し捕まった。
でも、嫌な顔せずにファンサービスに励む。
「さすがですね」
「まーな」
誇らしげに彼女は笑う。
店員さんん呼び、僕達はチーたまぶたモダンと風月デラックスを頼み、仲良く半分こして食べる。
「んまっ!」
「絶品ですね!」
関西にはこんな美味しい物があるのか。
春樹さんは、嫌がらせしたろ。と意地悪く笑いながらお好み焼きの写真と、僕の写真(食べてる姿)をiPhoneで撮り、なにか操作する。
「よし」
「??」
「秋斗に送り付けてやった!」
にしし。彼女は笑う。
すると直ぐにLINEは既読になり、「俺らも食うし!!」と反論が届いた。
雅さんの腰は生きてるだろうか。
僕達は、お好み焼きのお店を出て、近くの店を物色し、食後のデザートに抹茶のアイスを食べる。
そして、
「……洵、観覧車乗りたい」
「え、」
「……ダメか?」
僕を伺うその顔は何だか小さな子供みたいで、年上のお姉さんなのに、普段はかっこいいのに、今日は可愛いなと思う。
「……一緒に乗るの僕でいいんですか?」
「……言わせんな、バーカバーカ」
春樹さんは僕の手を引っ張りチケット売り場に連れていく。
此処のチケット代を払うのは譲ってくれなくて、仕方なしに彼女に払ってもらった。
ゴンドラに乗る。
「……俺さー、家族ともこんなとこ来なかったし、俺こんなだから恋人とか友達とかもあんまいなくてさ。だから、今日楽しかった。ありがとな」
弱々しく笑うその顔が切なくて、守りたいと、強く思う。
「じゃあ、あの、また、来ましょう、あの、僕で、よかったら、ですが……」
春樹さんは僕が不器用に紡いだ言葉に驚いてから、泣きそうに笑って「さんきゅ」といった。
「また来ような」と。
それから僕達はまた大阪の街を行ったり来たりして、ギリギリまで大阪を楽しんだ。
そして、夕方、新大阪駅。
駅弁を選んで買って、ホームで新幹線を待っていると同じように駅弁を買ってきた秋斗さんと雅さんが寄り添ってホームにやってきた。
雅さんはまだ腰が痛そう。
4人で新幹線にのり、座席を向かい合わせにして座る。
目の前のバカップルさんがいつにも増してイチャイチャするし、お互いの首筋やら胸元やらに赤い跡が残っていて見ていられない。
「そういや、灰と泪は?」
秋斗さんの問いに春樹さんが答える。
秋斗さんと雅さんは、泪さんと拓也さんがそういう仲に発展していたことを大層驚いた。
僕はあまり驚かなかった。
泪さんが春樹さんを諦めていたことは気づいていたし、そういう愛がある事を灰さんが教えてくれたから。
「あいつらがねぇ」
「まあ、泪が幸せならそれでいいよ」
「だな」
後は誰かさんが頑張ってくれたらなー。
秋斗さんは僕を見る。
僕は気付かないふりをして駅弁を食べた。
4人でウトウトしていたら最寄りの駅に着く。
僕は2人に海遊館のお土産を渡して、僕と春樹さんはバカップルさんと別れる。
「はー、楽しかった!!」
「ですね」
また行こうな。
その笑顔に僕の理性が飛んでしまいそうになる。
いっそ、伝えられればいいのに。
「(……つらい)」
いっそ『貴方が好きだ』と伝えてその細い身体を抱きしめたい。
でも、僕は臆病だった。
あの人が僕を必要としなかった過去が、あの人が罰ゲームとして僕を使用していた過去が、どうしても忘れられない。
あの偽りが僕を拘束する。
僕は浮かれていた。
浮かれていると、ろくな事がない。
「あっれぇ??洵君じゃない??」
「……っ!!」
不愉快に間延びした甘え声。
どこかで聞き覚えのある癖のある声。
忘れられなかった声。
僕を拘束して逃がさない鎖。
目の前に、あの人がいる。
あの『嘘』を吐いていた人が軟派な男にまとわりついてそこでいやらしい笑みを浮かべている。
息ができない。
外見を変えても、考えを変えても、この人とのことは吹っ切れるなんて出来なくて、鎖は僕に絡みついて嘲笑う。
視界が固まる、身体が動かない、現実味がない、声が遠い、声が出ない、……息が、出来ない。
「萌花、こいつ誰?ああ、もしかして『あの』元彼??」
あの人を引き寄せ、男は下品な笑みを浮かべた。
確か、僕の2個上だから彼女は大学生か。
よく、今まで会わなかったな。
昔と変わらないのはシルエットと声だけ。
髪型も化粧も服装も、何もかも昔とは違う。でも、分かるのは、僕がこの人に細胞レベルで囚われているからだ。
「そうそう!『あーの』元彼!!」
気づいてしまった。
『あの』という言葉に嘲笑が含まれている。
嗚呼、僕はただの。
息が、出来ない。
「だいぶイメチェンしたねぇ?でーも?変わらず根暗さは隠しきれてないよー??というか、洵君隣の人は今カノ?ん?男?女?わっかんないけど随分意外な組み合わせ!!あはっ!!初めましてぇ、洵君の元カノでーす!!」
何かを言おうとした春樹さんの言葉を待たずにあの人は不愉快な甘え声で捲し立てる。
息が、出来ない。
「ねぇねぇ、この子となんで一緒にいるの?この子、貴方みたいな綺麗な人には勿体ないよお!!根暗ないじめられっ子で腕に気持ち悪い傷あるし、しかも、しかもね?強姦魔の子供!!最低だよね!!あははっ!!」
下品に嗤う恋人達。
ああ、父親のことはこの人が広めたのか。
自分の浅はかさに笑うしかない。
僕の元になった精子は女を複数人で犯して穢し自らの快楽のためだけに行為に及んだ誰かだった。
僕は春樹さん達の言葉に救われた気がしてた。
でも、僕は醜い。醜いんだ。
遠くで、聞こえる嘲笑がどんどんエスカレートしていく。
いやだ、もう、いやだ。……やめてくれ。
貴方の優しさを信じた僕が馬鹿だった。
嘘の愛情に依存した僕が馬鹿だったんだ。
貴方なんか好きにならなきゃよかった。
恋なんてするんじゃなかった。
もう、いやだ。
貴方も僕を嗤うんでしょう……??
意識が遠のきそうになった。
ーバチーーーンっ!!
意識を飛ばしかけていた僕をこの世に呼び戻したのは、乾いた音だった。
春樹さんがあの人を思い切り平手打ちしたのだ。
「……ったぁ!!なにすんのよ!!」
あの人が、春樹さんに殴りかかろうとする。
が、春樹さんはそれを軽々かわし、尚且つあの人の手を掴んで締め上げる。
「悪ぃ悪ぃ。他人を傷つけるしか楽しみのない糞虫がいたから思わず手が出たわ」
「……っ!!ぃったぁ!!!痛い痛い痛い!!離して!!!」
春樹さんがあの人背中に回したあの人の腕を思い切り締め上げる。
あの人は苦痛に悲鳴を上げた。
僕は、ただぼんやりとその景色を眺めていた。
「……あんたみたいな誰にも股開くようなガバガバのアバズレビッチにゃ洵は勿体ない男だよ。優しくて、逞しくて、強くて、誰にも優しさを与えられる、誰をも救えるでけぇやつだよ。腕の傷が気持ち悪い??ここまでこいつを追い込んだのはお前らだろ??ふざけんじゃねぇ。お前だけじゃない。洵を傷つけたやつは1人残らず俺が、」
ーー殺してやりたいよ。
ゾッとする。
茉妃奈さんに感じた狂気を春樹さんに感じた。
この人も、誰かのために、誰かを殺すのだろうか。
僕は、それが僕のためであることが嬉しかった。
……狂ってる。
この世界は、狂ってる。
「ひっ……」
「もうこいつに関わるな。関わったら俺がぶちのめす」
「わ、わかった、わかったから……」
あの人と今彼さんは春樹さんの狂気に恐れおののいて慌てたように去っていったのだと思う。
分からない。
僕は、いつの間にか僕達の部屋の玄関にいた。
どんな順序で、どんな道のりでここまできたのか、分からない。
ただ、春樹さんに握られた右手が、温かかった。
「洵、」
「僕は、僕は生きてちゃ、いけない……」
死ななきゃ。
僕は、僕は……。
「……じゅん」
「……っ……」
優しい人は玄関で立ち尽くす僕を優しく包み込むように、抱き締める。
僕はいよいよ、成長期がきたのかな?出逢った当初はかわらなかった身長も、少し僕の方が高くなったなぁとぼんやり思う。
春樹さんの香水と、少しの汗の香りと、微かに残る煙草の香りが僕の鼻腔を満たす。
どくどくどく……心臓の音。僕達は、生きている。
「……一緒に死んでやろうか?こうやって抱きしめ合うこともできなくなるけど、俺はいいよ」
それすら、甘い響きだった。
でも、
「……やだ……ぃやだ!!いやだ!!いやだ!!!僕は生きたい……!!貴方と、生きたい……」
こんなにも僕が生きることを望んだのは、貴方のせいだよ……。
貴方の優しさと温かさに触れて、僕は欲張りになったんだ。
生きていたいなんて思わない。
でも、貴方と生きたいと思うんだ。
「……春樹さん、僕は……」
もう誰も好きにならないと思ってたし、なっちゃいけないと思ってた。
僕は醜い。いらない存在。ただのおもちゃ。ただの、ストレスの吐き出し口。
誰も僕なんて愛してくれない。
でも、僕は春樹さんの全てを手に入れたかった。優しさも温かさも逞しさも、苦しみも、全部、全部。
春樹さんはこんな僕を大切にしてくれた。
でも、怖かったんだ。また、嘘かと思うと、怖かった。
もう二度とあんな惨めな思いはしたくない。もう誰の愛情なんて求めない。
でも、溢れる愛おしさをもう制御出来ない。
「……僕は……っ!?」
春樹さんの唇が、僕のそれに触れる。
一瞬だけど、優しく触れて。
僕から離れたその彼女の表情に、僕は心臓が止まる。
彼女は、また、あの切れ長の瞳から涙を流していた。
「……じゃあ、俺に溺れたらいい。そしたら生きる意味をお前にやるよ。生きる意味なんていくらでもくれてやる。だから……」
ああ、泣かないで。
僕も泣けてくるから……。
「だから、俺にも……『私』にも生きる意味を与えてよ……」
ああダメだ。
この人は、『強くて、弱い』
だから僕が守らなきゃ。
僕が守らなきゃいけないんだ。
僕は春樹さんの細い身体をかき抱く。
キツく、キツく。
「……洵、痛てぇよ」
「……春樹さん……春樹さん、春樹さ、はるき、さ、」
「……なんだよ、バカ」
もう、泣かないで。
貴方は、僕が守るから。
「……僕が貴方に生きる意味を与えるから貴方は僕に生きる意味を与えてください。僕を貴方に溺れさせて……僕を……」
ーー貴方に溺れさせて殺してよ……。
僕達は此処が玄関であることも忘れて夢中で口付けを交わす。
僕達は夢中で深くお互いを求め合い貪りあった。
ローズオイルの芳しい香りと、ほのかに残る煙草の苦味、お互いどちらか分からない涙の味が僕達の媚薬になる。
「……じゅん、キスも、初めて?」
僕達はいつの間にか春樹さんの部屋に移動していた。
僕の上着を脱がしながら器用に口付けをしてくる最愛に僕は戸惑いながら不器用に応じる。
最愛は挑発的に笑う。また、口付けをする。
「……あの人は僕を、愛してなかったから」
「……そか。勿体ねぇな。まあ、いいけど?私はちゃんとお前を愛してるよ。……あの路上ライブの日から、ずっと」
「……え?」
路上ライブの日??
それは僕が初めて«sins»を知ったあの日だろうか?
でも、あの時はまだ僕達は『知り合ってなかった』のに、なんでそんなことを言うんだろう。
尋ねようとしたが、僕は出来なかった。
最愛が自らね服を脱ぎ捨て、下着のみを纏った姿になったからだ。
華奢で、綺麗なその身体に僕は見惚れた。
下着の漆黒が肌の白さをより強調している。
肩幅は女性にしては少し逞しいだろうか。
二の腕や腹筋も鍛えられ、筋肉質に引き締まっている。
でも、肋骨は少し浮いていて、秋斗さんにからかわれている通りに胸は少々小ぶり。
どうして、こんな綺麗な女の人を僕は男だと思ったんだろう。
そして、彼女の片割れと同じような位置に無数の根性焼きを見つける。
「見すぎ。洵のえっち」
「……これ」
「……醜いだろ?」
全然。
僕は春樹さんに軽く口付ける。
「……急になんだ」
「……胸はあまり無いんですね」
「てめ、覚悟しやがれ!!」
「ぅわぁっ!?」
照れ隠し故の僕の失言に、凶悪な顔をした最愛は僕の上半身に彼女の全体重をかけ、押し倒し、覆い被さる。
何もかもが慣れている。
ああ、この綺麗な人は僕以外にも……。
切なくなった。
「……安心しろ、一応処女だから」
「一応?」
「揚げ足とんな」
気になることはある。
でも、
「……僕が、『初めて』で、いいんですか?僕は……」
「洵は、私を、愛してる?」
「貴方の生きる意味になりたいくらいには」
「ベタ惚れじゃねぇか。……私だってお前が思ってるほど綺麗な人間じゃねぇよ」
春樹さんは視線をそらし切なく呟く。
「春樹さんは僕を愛してくれますか?」
「お前と死んでもいいくらいには想ってるよ」
「僕のどこがいいんだか」
「話すと長くなるから身体に直接教えてやろう」
いつもの勝気な笑顔で安いエロ漫画にありそうなセリフを吐いて最愛は僕に口付ける。
深く優しく、包み込むように、不安を消し去るように。
嗚呼、この人と生きたい。
この人に溺れて死にたい。
切ない声、涙ぐむ瞳、重なる吐息、募る愛情、甘い背中の痛み。
僕達はぎこちない行為の中、ショッキングピンクのシーツの海に一心不乱になって、溺れた。
ーつづくー