18話 両想う
18話 両想う
気だるい朝を迎える。
どうしてこんなにも身体がだるいんだろう。
あと、なんで左腕と胸が重いんだろう。
何かが、乗っている??
「……んー……んん??」
僕はベッドに全裸で寝ている。
しかも僕のベッドでは無い。
左腕の方に目をやる。
奇抜な色。ん??髪??
………………。
「……?!!!」
すよすよ。
春樹さんが、恐らく全裸で僕に絡みついて寝ている。
なんで?!!
昨日の事を必死に思い出す。
大阪でライブがあってその後色々あってから春樹さんと大阪で遊んで、4人で帰って、……あの人と会ってしまって、そして。
僕は、春樹さんとシたのだった。
なんてこった。
僕は春樹さんを起こさないように顔だけで器用に百面相する。
「……ぶっ、ふふっ」
「……春樹さん??」
「悪ぃ、お前面白すぎ。ぶふっ」
最愛は狸寝入りしていた。
趣味の悪い。
「趣味悪いですよ」
「ごめんて、じゅーん、じゅーんくん?」
僕が拗ねていると最愛はつんつんと僕の頬をつつく。
むー……。笑わないで頂きたい。
僕は、初めてだったんだから。
あんな恥ずかしいことした後なんだし。
「洵?ふふっ」
「……んむっ」
最愛は大層ご機嫌で僕の唇にチュッチュッチュッとバードキスを繰り返す。
可愛すぎやしませんか、お姉さん。
そして、朝から刺激が強すぎる。
「洵、今日はなんかあるっけ?」
「んーと、確か……」
僕は春樹さんに腕枕をしたままの体勢で壁掛けのカレンダーを見る。
今日は、15時からコンビニバイトが入っている。
今は朝の6時。
「3時からコンビニです」
「……ふーん?じゃあ、もうちょいイチャイチャできるな?」
「わっ、ちょっ、春樹さん!?」
悪戯に笑ったと思ったら最愛はガバッと起き上がり、僕に跨る。
彼女の裸体があらわになって、僕は慌てふためく。
「今更だろ?」
「いや、刺激が強すぎる」
「かーわい」
また最愛は僕にバードキスを繰り返す。
そして、妖艶すぎる吐息を吐いて、彼女はまた深く口付けてくる。
もう、たまらない。
ーーガバッ
僕は上に乗っていた春樹さんを組み敷く。
「?!!」
「……あまり、舐めないでください」
「ふーん?できんの?」
「……多分」
最愛は挑発的に笑いながら僕の頬に手を伸ばす。
僕は突発的にやってしまった行動を悔いた。
でも、やるしかない。
僕は年上の可愛い最愛にリードされながらまた最愛を深く愛した。
「忘れもんは?」
「……大丈夫です」
「土産は持った?」
「はい」
行為の後で気だるい身体を引きずりバイトに行く。
最愛は薄着で……というか僕の寝巻きを彼シャツにして玄関まで見送りに来てくれる。可愛いかよ。
彼女は専門学校を卒業し、あのアパレルショップで正式に雇われる事になっている。
今日はお休みらしい。
「今日晩飯何食いたい??」
「……春樹さん??」
「なんで疑問形なんだよ」
「痛っ」
最愛は笑いながら僕の頭を叩く。
地味に痛い。
ボカスカ殴らないで欲しい。
「……カルボナーラ食べたい」
「お前、パスタばっか。まあ、作ってやらんことも無い」
「……ありがとう。あ、もう、行きますね」
名残惜しいけど、仕事に遅れる。
「あ、洵」
「はい?……んむっ」
最愛に呼ばれて振り向いた僕の唇に、最愛の唇。
間近に最愛の整った顔。
キスされた。と気づくのに時間はかからなかった。
「……忘れもん」
「……ふふ。行ってきます」
「……おう」
また1回口付けして僕はバイトに向かった。
そして、1日バイトを終え、最愛が待つ部屋に帰る……前に恒例の実架さんの送迎。
実架さんはずっと僕を見てはいやらしくニヤニヤしていた。
「……ふーん?ほーん?へー??」
「……あの、今日一体何ですか?」
「いや、熱烈な跡、ついとんで?春樹さんとゴールインしたん??」
「うぇえ?!!」
図星なそれを言い当てられ僕は動揺する。
わたわたわたわた。しばらく意味の無い動きを繰り返していると、実架さんも同じ動きをする。
いやらしく、ニヤニヤしながら。
「お姉さん、詳しく聞きたいなぁ??」
「あ、いや、その……」
僕はその話題から逃げるために別の話題を振る。
「……実架さんこそ、琉架さんとどうなったんですか」
彼女は少し驚きながらも穏やかな表情になる。
「うーん、関係はギクシャクしとる。でも、やっぱりウチらはお互いしかって感じやから、双子以上恋人未満って感じかな」
彼女は笑った。
過去にバンドを組んでいたメンバーには、関係がバレて酷い中傷を受けたと。
でも、自分達はお互いがいたらよかったから、気にならなかった。でも、つらかった。でも、«ジェミニ・シンドローム»は彼女達を受け入れた。僕は受け入れた。
だから、救われた。
ありがとう、と。
彼女の顔は晴れ渡っていた。
こんな僕でも、誰かを救うことができたのかなぁ?
僕は最愛に早く会いたくて急いで帰る。
「……春樹さん」
「ん。おかえり」
おつかれ。
彼女はそう言うと僕を抱きしめ、優しく口付ける。
僕はそれが愛おしくてしつこく口付けする。
ふふふ、と最愛は笑いながら僕の攻撃から逃げる。
「……しつこい」
「だって、」
「だってじゃない」
こつんと額が触れる。
僕はそれすら愛おしくて、最愛をまた抱きしめる。
最愛は擦り寄る僕に擽ったそうに身をよじる。
「……春樹さん」
「なーに?」
「……好き」
「……知ってるよ」
チュッ。
唇が触れて、春樹さんは僕から離れる。
もう少し、抱きしめていたいのに。
「飯冷めるからまた後でな」
「……はい」
僕はカバンを部屋に置いて、洗面所に手を洗いに行きリビングへ。
ダイニングテーブルには美味しそうなカルボナーラとフランスパン、サラダが用意されている。
「……至れり尽くせり」
「はいはい。俺は腹が減りましたー!」
僕は慌てて席につき、手を合わせる。
1口、2口……、止まらない。
美味しい。
「お前ってなんかやっぱり男だよな」
「へ?」
最愛は優しい顔で僕を見つめる。
さながら聖母だと、思った。
そんなこと言ったら「俺はそんないいもんじゃないよ」と貴方は笑うだろう。
「食い方が、なんか、ガツガツって感じするし、手はごついし、身体も細身だけどめっちゃ男。あと、デカい」
「……デカい?何がですか??」
「……ナニか?」
はーーーっ。ため息がでる。
どうしてこうも色っぽいかなこの人は。
この妖艶すぎるお姉さんは僕の最愛ですと言いふらしたい。
「……下ネタじゃないですか」
「……ふふ。つい」
最愛を見る。
男のような振る舞いをしているけど、何もかもが男の僕とは違う。声、身体、仕草……全て、違う。
僕は彼女を見つめる。
「何?」
「……ペアリング買いませんか?」
「え?」
「あ」
昨日の帰り、僕はあのバカップルさんの左の薬指に前はなかった光るものを見つけた。
とても、羨ましかったから、つい、出た。
ふーん??とニヤニヤいやらしく笑う最愛。
くっそ可愛いんだよ!!
「……いいよ」
「え、いいんですか?」
「ただし、お前がこれからタメ口で話すと約束するならな」
「え"っ」
「簡単だろうよ?」
「うー……そっすね」
「はいダメー。出直してこーい」
最愛はケラケラ笑いながら食べ終わった食器を片付けていく。
そして、すぐに洗い物をする。
「……春樹さん」
ピクリ……。
後ろから抱きしめ耳元で囁けば彼女の身体が少し跳ねる。
最愛は僕の声が好きみたいだった。
「……お願い。ペアリング買お?」
「……わか、ったから、耳元で、言うな」
「……嬉しい」
「……バカ。手伝え」
「……うん」
僕達はさっさと洗い物を済ませ、別々に風呂に入り、また、睦み合う。
こんな幸せがあったなんてしらなかった。
行為後の倦怠感にも少し慣れた頃に僕達の休みは一致した。
ので、ペアリングを買いに、春樹さんが泪さんと共に働くアパレルショップに行くことにした。
アクセサリー類も置いてあるらしい。
春樹さんは目星いものを見つけたと自慢げに言う。
ーカランカラン……
「いらっしゃいま……なんだバカップル2号か」
「泪、あんまりな言い方だなぁ?」
店番をしていた泪さんは僕達が入ってきたのを見つけるとウンザリしたようにはぁ……と肩を落とす。
最愛が意味ありげに笑うと彼女は肩を竦め舌を出した。
「お前はどうなんだよ?」
「……」
泪さんは視線を泳がすとため息を吐いて観念したように左手を僕達に見せる。
そこには凝った指輪が光っていた。
「……おい、これ結構高いとこのだろ」
泪さんが言うにはなんとかっていう難しい名前の、結構値の張るジュエリーショップのものらしい。
「……あいつ一応あれで正社員でいい給料もらってるらしい。でも、こんなの貰えないって言ったのに、押し付けられた」
「「へー??」」
ニヤニヤニヤニヤ。
僕達はいやらしく笑う。
泪さんは耐えられなくなり話を変えようと奮闘する。
泪さんもちゃんと愛されてる。
はて。
僕はフリーターな訳だけど。
「……春樹さんも高価なほうがいい?」
「いんや。俺は此処のがいい」
意を決して聞いてみた問いはバッサリと切り捨てられてしまう。秒で。
最愛はすっとアクセサリーが置いてあるスペースの方に吸い込まれていく。
僕は泪さんと置いてきぼりを食らう。
「春樹さんは此処のブランド大好きなんだよ」
「へぇ」
「今日は何を探してるの??」
「ゆ、指輪、デス」
「へー???」
泪さんは仕返しだと言うばかりにいやらしく笑う。
ニヤニヤニヤニヤ。
本当に冷やかしてすみませんでした(土下座)
「泪さんも貰ってるじゃないですか。付き合いだしたの同じくらいの時期でしょう。しかも高価なものだし」
「なんで私の話になるの!もうバカップルなんて知らない!勝手にイチャついてろ!!」
泪さんは顔を真っ赤にしてレジの方に逃げていく。
仕方ないから僕は春樹さんが吸い込まれていったスペースに行くことにした。
泪さんはやっぱり気だるそうにしてるけど、まだ、前よりは楽しそうにしている。
「……やっぱり最高」
「あった?」
「うん、これ」
春樹さんが指さしたのは、値段は僕でも2人分買えるような感じのお手頃価格の、ペアリング。
でも、デザインが、なんか厳つくて凝っていて、春樹さんにはピッタリ似合うだろうけど僕なんかには似合わないような、そんな指輪だった。
「……僕に合うかな?」
「きっと似合うよ。俺が保証する」
「……ん」
コツン。
額を合わせる。
此処が何処か忘れていた。
「ん"っん"ん"っ」
「「……」」
泪さんの咳払いで2人だけの世界から、現実へ。
僕達は気まずくて不自然に離れる。
「はーあ、決まった?バカップルさん」
「お、おう。これ」
「サイズわかる?」
「俺は分かるけど、洵は?」
僕は首を横に振る。
指輪なんてしたことがない。
「仕方ないなー。測ってあげるから待ってて」
泪さんは気だるげに再びレジへ。
すると輪っかの沢山の束を持ってくる。
これを嵌めて測るのか。
測ってみると、やはり春樹さんより数サイズ大きくて、泪さんは「オトコノコだねー」とまたいやらしく笑った。
サイズも分かり、後は会計。
でも僕はあるモノに目を奪われる。
この間のクリスマスに僕が春樹さんにあげて、彼女が最近常に身につけているものによく似た、ブラックジルコニアのピアス。
開けてみたい、けど。
僕は耳たぶを触る。
「……開けてぇの?」
「うーん、僕には似合わないかな」
「いいじゃん、開ければ。春樹さんテクニシャンだし私も春樹さんに何回か開けてもらってるから上手さは保証するよ?春樹さんにそっちのハジメテも貰ってもらえば」
「はぁ?!!」
お。と呟くと泪さんは更にいやらしく笑う。
「へぇ、ハジメテあげたんだぁ」
お互いに、ねぇ??
ニヤニヤニヤニヤ。
いたたまれない。
僕達はぎこちなく動作を繰り返す。
「よ、よし、ピアス買ってやるよ!」
「え、で、でも、」
「でもは無し!!」
そして、僕達はまたレジで攻防戦をする。
でも今回は泪さんが僕の味方をして、ペアリングは僕が、ピアスは春樹さんが払うことになった。
泪さんに「おっとこ前ー」と冷やかされたので「拓也さんとお幸せに」と笑うと彼女は真っ赤な顔で何かを言っていた。
僕達は逃げるように店を出た。笑いながら。
近場の別の雑貨屋でピアッサーを2つ買う。
石は、僕の誕生石と春樹さんの誕生石のものの2種類にした。
我ながら発想がバカップルだなぁと、思う。
愛の巣に帰って。
僕のベッドの上でイチャイチャしながらピアッシングの準備をする。
「保冷剤とー、消毒液だろー?マジックにー、ピアッサー……あとなんか……ってこら洵、くすぐったい」
僕の脚の間に春樹さんが収まり、僕の脚の外に置かれたピアッシングに必要なものを楽しそうに確認していく。
僕は暇で春樹さんの脇腹をこしょこしょとくすぐったり、奇抜な髪の香りを嗅いだりする。
彼女は身をよじる。
「保冷剤はなんで?」
「冷やして感覚なくすんだよ。んー、ここら辺かな?」
春樹さんは僕の両耳を見ながらピアッシングする場所をマジックで印つける。
そして、保冷剤で僕の耳を少し冷やし、つんつん。
「感覚分かるか?」
「あんまり」
「よし」
消毒液でまず冷やした右耳を消毒する。
びり。びり。ピアッサーのパッケージを開けていよいよ、ピアッシング。
春樹さんは優しく微笑んだ。
やっぱり聖母。
ーーカシャンっ!!
「っっ!!」
いや、聖母じゃない。
ただのドSだった。
合図無しでやるとか……。
でも、リスカの時のような悲しい痛みじゃない。
はーーー。
僕は最愛の肩に項垂れる。
少し涙目。痛いもんは、痛い。
「次、左ー」
「せめて合図してよ……」
「はいはい」
最愛は楽しそうに笑いながらサクサクと左耳のピアッシングの準備をして、またピアッサーのパッケージをびり。びり。
「……ホント頼むから合図して」
「はいはいはい。3、2、1ー!」
ーカシャンっ
「っ……」
いや、早いし。
気持ちの準備ができない。
はーーー。
僕は再び春樹さんの肩に項垂れる。
彼女は優しく頭を撫でてくれた。
「……ドS……1人飴と鞭……」
「え、今更俺がSだって気づいたのかよ、遅くない??」
「……いや、知ってた……」
知ってましたとも。
でも、僕も春樹さんの弱いところはもう知っている。
エロ漫画風に言えば、『イイところ』だろうか。
「……ん、洵、こら、待て」
「待たない」
仕返し、してやる。
また今日も僕達は愛し合う。
まるで、猿だ。
僕らの周りで異変が起き始めたのは、この頃からだった。
ーつづくー