22話 沖縄へいざ!
22話 沖縄へいざ!
「洵、ホント大丈夫か?」
あれから家に帰って、僕達は食事もせずに狭いシングルベッドの上で抱き合う。
座った僕の脚の間に春樹が収まる、いつものスタイル。
春樹は僕の痛々しく腫れた頬に、そっ、と手を添える。
僕が彼女の細く柔らかい手に擦り寄って甘えると彼女は困ったように笑った。
「なあ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。春樹の痛みに比べたらこれくらいなんてないし、僕は春樹のためならなんだってできるし、なんだってする」
例え、それが誰かを傷つける事でも。
そう彼女を見つめ呟くと春樹はまた困ったように笑い、「お前はそんな事しなくていいよ、馬鹿」と僕の腫れてない方の頬を抓る。
「痛いよ」
「……洵」
「うん?」
「ありがとうな」
「もう、大丈夫だからね」
「……うん」
僕の胸に擦り寄る僕の最愛。
だが、彼女はまだ浮かない顔をする。
「どうしたの?」
「……嫌がらせ、来てるだろ」
「……知ってたの」
「昨日、ポストに入ってたから」
ここ最近、2日に1度くらいの頻度で嫌がらせの手紙が投函されている。
毎回、飽きもせず『春樹と別れろ』その一言だけ。
毎回僕が先に気づいて処分していたから気づかれていないと思ってた。昨日は来てないと安心していたら、先に春樹が気づいてしまったのか。
「でも茉妃奈さんの可能性は?」
「……わかんない。でもたぶん違うと思う」
「あんまり酷くなるようなら警察とかに頼ろうよ」
「……あんまり頼りにならねーけどな」
前にストーカーに合った時も警察はあまり動かなかったらしい。
なんの為の警察だよ。
「……なら、ちょっと値が張るかもだけど探偵とかさ。あと、引越しとかも考えよ?」
「……うん」
「僕はずっと春樹といたいから」
「うん、私もだよ」
軽くキスをする。
少し離れて、最愛が僕に擦り寄る。
くすぐったい。
「くすぐったいよ」
「我慢しろ」
ぐりぐり。
さすがにくすぐったいを通り越して痛いくらいだ。
でも、今までより安心したようなその表情に僕も少し安心する。
1つ、僕達を取り巻く問題が解決したのだ。
もう春樹が痛々しい傷をつけてくることは無い。
よかった。本当に。
まだ、問題は、残っているけれどとりあえず僕達は暫しの幸せを手にした。
それから嫌がらせも少し落ち着いたようでありつつ、変わらず週に1回くらいは封筒が投函されている8月末。
といっても8月31から9月2日は沖縄は旧盆で休業する店が多いらしくてそれは避けたけど、僕達の顔の痣も落ち着いてきた頃。
僕と春樹は朝早くの最寄りの駅にいた。
大きな荷物共に。
「早く来すぎたか」
「まあ、遅れるよりよくない?」
「ふふ、そうだな」
僕達は«sins»……じゃない人もいるけど……の公認バカップル3組、『元祖』の秋斗さんと雅さん、『2号』の僕と春樹、『3号』の拓也さんと泪さんの6人で2泊3日の沖縄旅行に行く。
灰さんは妊娠中の奥さんとお留守番だ。
「お、秋斗と雅来たな」
直ぐに秋斗さんと雅さんが来る。
まだ待ち合わせまで、10分ある。
僕達は早く来すぎた。
「うぃー。ってか、早すぎだろ」
「楽しみだったんだよ。な、洵」
「うん!僕、こういう旅行初めてだから凄く楽しみで!」
ワクワクした僕の肩を春樹と秋斗さんが掴む。
「??」
「「楽しもうな!!」」
「え、う、うん」
嬉しいけど2人の勢いが怖い。
そして3分ほどすると拓也さんと泪さんが合流する。
2人は僕達4人が既に来ていたことに驚く。
「え、私たち時間間違えた?」
「いや、オレ達が早く来ただけだ。特に洵が張り切ってた」
「だって楽しみで……」
友達なんかいなかったし、旅行なんて学校の修学旅行くらい。
あんなものは楽しみでも何でもなくて、ただの拷問だったけど。
そんなウキウキ状態の僕の頭を泪さんが微笑みながら撫でたものだから拓也さんの顔が怖かった。
それから僕らは電車に乗って空港まで行き、飛行機に乗ることになった。のだが。
「…………」
「大丈夫か?」
「いや、僕、飛行機も初めてでちょっと怖い。落ちないよね?」
「不吉なこと言うなよ。仕方ねーな。手握っててやるよ」
春樹が笑いながら僕の手を握ってくれる。
春樹の手、好きだな。
細いけど柔らかくて、温かくて、すべすべで、好き。
少し恐怖が和らぐ。でもとうとう離陸。
「…………っ」
「はははっ!息しろって!」
春樹は笑うけど。
でも、怖いものは!怖い!!
「なに?洵大丈夫か?」
「飛行機初めてだもんね」
「え、マジかよ?!」
通路を挟んで隣の列の席に座っていた元祖バカップルの2人が心配してくれるけど、あまり大丈夫ではない。
ちなみに拓也さんと泪さんは僕達の後ろの席に座っている。
「……ほんとに怖い」
「高所恐怖症か?」
「……いや、違うけど、怖い」
「しゃーねぇな。落ち着くまで寄りかかってていいよ」
「……ん」
肩に寄りかかると春樹の香水の香りが鼻腔をくすぐる。
ああ、安心する香りだ。
しばらくして、飛行機は無事安定して空を飛ぶ。
アナウンスが流れ、自由に席を立って歩けるようになった。
「春樹さんと洵がイチャイチャしてる」
「おや、本当ですね」
後ろからバカップル3号の2人が顔を覗かせる。
僕はまだ春樹の肩に寄りかかったまま。
「飛行機怖いって泣きついてきたんだよ」
「……泣いてない」
「はいはい。洵は可愛いなー」
「……可愛くない」
僕が拗ねてると春樹はよしよしと頭を撫でてくる。
僕は擦り寄った。
「洵弱ってんなー」
「珍しいよね。洵が人前でここ迄春樹に甘えるのって」
秋斗さんと雅さんも何か言ってるけど、いや、ホントにそれどころじゃない。
怖いものは!怖い!!
「んふふ。洵が可愛い」
「……可愛くないから」
春樹はずっとご機嫌で。
そんな最愛を見ていて少し恐怖が落ち着いて来たのが離陸から約半時間後。
僕は春樹から離れて座り直す。
「ありがとう春樹。もう大丈夫」
「ん。顔色もだいぶ良くなったな」
優しく微笑んで僕の頭を撫でる姿はほんとに聖母(マリア)……。
「……すき」
「ふふ、俺もだよ」
そんなデレデレイチャイチャしている僕達の隣の席では。
「おい、雅。春樹と洵がすげぇイチャついてる!!オレ達もやろーぜ」
「ヤダよこんなとこで」
「……ふーん?じゃあ2人きりならいいんだな?」
「……バッッッカじゃないの!」
と、ニヤニヤしている秋斗さんと真っ赤な雅さんがいた。
僕達の後ろの席の2人は寄り添って爆睡しているようだった。
朝早かったからなぁ。
「洵、8月の沖縄って紫外線やばいらしいから日焼け止め塗っときな」
「あ、うん、ありがとう」
春樹が自分のカバンから日焼け止めを取り出し手渡してくれたので僕は受け取り、露出している顔、首、腕、脚に塗る。
「此処、白くなってる」
「あ、ごめん」
春樹は僕の顔に手を伸ばし、伸ばしきれていなかった日焼け止めを僕の肌に塗り込む。
「んー、……ん!おけ!!」
「ふふ。ありがとう。春樹、まだだよね?はい、これありがとう」
「ん。サンキュ」
春樹は顔には既にお化粧をしているので、首、腕、脚に塗っていく。
そして、秋斗さんと雅さんにも塗るように促し、また爆睡中だった拓也さん、泪さんも起こして日焼け止めを渡す。
2人はぽやぽやしながら言われた通りに日焼け止めを塗っていた。
そしてしばらくして沖縄付近まで飛んでいくと、急に春樹が興奮したように声を上げる。
「おい!洵!洵!!海めっちゃ綺麗!!」
「うわぁ!!ホントだ!!」
その声に秋斗さんと雅さんが僕達の席越しに窓の外を覗きこむ。
後ろでも拓也さんと泪さんが同じようなやり取りをしている声が聞こえてきた。
「おお!すっげぇな!!」
「さすが、沖縄」
僕達のテンションも最高潮。
どんな2泊3日になるのだろう。
ーつづくー