平和に行きましょう。

8月、心地よい温もりと歩み寄り(慶人視点)


8月、心地よい温もりと歩み寄り(慶人視点)


何やら気だるげな朝。
俺は心地よい温もりを感じながら目を覚ます。
目の前には誰かのスウェットの胸。
誰だ?と寝ぼけた目を擦りながら相手の顔を見ようと顔を上げる。

「……んぅ……すぅ……」

俺が添い寝をしていたのは冬樹で、寝ている冬樹を見ながら、しばらく、なんでこいつと添い寝なんかしてるんだろう、ここは何処だろうと考えを巡らせる。

そして、昨日の出来事を完全に思い出し、思い切り赤面する。

そうだよ。
昨日、コイツと2人で気持ちよくなったんだよ。
てか、両想いに、なったんだよ、な。

俺はなんだか嬉しくなって冬樹の頬に口付けてから風呂に入ろうとした。

した、のだが。

「……んー……けいと、さ……」

「冬、なに?」

「……どこ、いくの……」

冬樹が起きて俺の腰にまとわりついてくる。
動けない。

「どこって、風呂」

「……やだ。行かないで」

「やだよ。風呂入りたい」

「……やだ」

んー……と唸りながら俺に巻きついて、コイツ、赤ちゃん返りしてんのか?ってくらい駄々をこねる。
175センチある男子高校生がそんなんしても可愛くは……いや、可愛いわ。

「……一緒に入るか?」

「え?!」

「冗談だよ。お前と入ったらセクハラされそうでやだ」

むぅ……と頬を膨らませる冬樹は、またギュッと俺に抱きつき、そして、ニヤリ。
その顔のいやらしさに俺の胸は脈打つ。

「……して、ほしいの?」

俺はその発言になんだか腹が立ち、冬樹の頭を思い切り殴り、腕が緩んだ隙に抜け出す。
冬樹は「いてぇっ!」と叫びながら自分の腕の中から逃げた俺を睨む。

「……可愛くない」

「可愛くなくて結構だ」

俺はそそくさと風呂場に逃げて鍵をかける。
鍵かけないと乱入されて何されるかわかんねーし。

スウェットと下着を脱いで、シャワーを浴びる。
気だるさが少し洗い流された気がした。

「(待てよ?俺、下なのか??)」

完全昨日の行為では俺が下、つまりは『される側』だった訳だが。
立場的に、女役の可能性出てきたぞ??
いや俺のプライドが許さない。

「(……でも、アイツに『される』のは嫌じゃなかった)」

はぁ……とため息を吐きながら、シャワーを止めて脱衣場に。
『される』という事に抵抗はあるものの嫌ではなくて本当にため息が出る。
惚れた弱みというやつか。

身体を拭いて、髭を剃り、服を着て、歯を磨いて。
俺が脱衣場から出ると冬樹は枕を抱きしめてまだベッドの中にいた。

「ふゆ」

「んー??ふふ、おかえり」

「はいはい、ご機嫌だな」

俺がベッドに座り、寝癖のついた頭を撫でてやると冬樹は気持ちよさげに目を細めた。
そして、俺の手を離さないまま起き上がると、俺を抱き締める。

「……ふゆ」

「おはよ」

「ん、はよ」

完全に、俺、女側だわ。
抱き締められて、顎を掬われて、優しく口付けされる。
なんなん、こいつ。
童貞じゃないのか??

「……冬、準備して飯行こう」

「うん、そだね」

冬樹が離れる。
少し名残惜しい……とか認めないからな!!
そして、冬樹が顔を洗いに行っている間に俺はスウェットから私服に着替えてテレビを眺める。
関西の朝の番組はテンション高いな。

ぐぅ……と俺の腹が鳴る。

「いい感じに鳴ったね」

「……聞いてんなバカタレ」

ちょっと待っててと、冬樹が服を着替えて、身なりを整えた俺達はホテルのレストランでバイキングを食べる。
2人とも、パンにスクランブルエッグ、ハム、サラダ、ヨーグルト、コーヒーをトレイに取る。
なかなか美味くて、2人ともおかわりを取りに行った。

そして、また部屋に戻る。
チェックアウトは10時。今はまだ8時半だし、まだゆっくり出来る。

「慶人さん、この後、どこ行こうか……って、うわ?!」

俺はベッドに座っていた冬樹を後ろから抱き締めて首元に頭を擦り寄せる。
いや、こんな恥ずかしいことするつもりじゃなかったけど、どうしてもしたくなったんだ。
冬樹は俺の手を撫でる。

「どうしたの?」

「……お前って童貞?」

「は?いきなりなんだよ」

冬樹は突然の際どい質問に困惑しているようだった。
お前が慣れてるのがいけないんだ。
誰かを抱いていた腕なら、嫌だ。

なんで、こんなにも。

「……付き合ったことあるのか?」

「え?ないけど」

「はあ?!なんだよ、天然タラシかよ!!」

安心したような、それでいてまっさら新品野郎と自分が恋仲なのはなんて言うか、背徳感。

「……だって、俺ずっとあの人しか想ってなかったし」

「…………」

冬樹、俺は、代わりなのか??
でも、それでもいい。
お前と笑っていられるなら。

「安心してよ。今は慶人さんが、1番好き」

「……ん」

冬樹は少し身体をずらせて俺に口付ける。
安心させてくれるそれは、心地いい。
でも、やっぱり慣れてる感あんだけど、なんなの。

「……なあ、冬」

「……ん?」

「……兄さんに、さ、俺にLINE教えてくれないか……聞いてくんない?」

冬樹は一瞬びっくりして目を見開いたけど、すぐに優しく笑ってくれる。

「いいよ。ちょっと待って」

冬樹はすぐ近くに置いていたiPhoneを手に取り、軽やかに操作する。
見ちゃいけないと思いつつ、操作され展開していく画面をチラリ。
LINEのトーク一覧には洵さんや他の家族、兄さん達の名前が見えたが、その1番上に固定されているのは俺のだった。

「(……くそが。ばーか)」

俺は照れてしまって冬樹の背中に頭をゴツゴツとぶつける。
冬樹は「痛い痛い!何?!」と笑う。

冬樹はiPhoneをタップして、LINEを送信したみたいだが、すぐには既読にはならない。

「……忙しいんかな」

「雅さんだからなー。タイミング悪いと全く……って、お?」

しばらくすると冬樹のiPhoneがLINE通話を着信する。
それは兄さんだった。

冬樹は通話をとり、スピーカーにする。
俺は冬樹を後ろから抱き締めたまま話を聞くことにした。

「もしもし?」

『冬樹?慶人もいる??』

「いるよ、兄さん。ごめん、急に」

『いや、大丈夫、だけどびっくりしてさ。どうしたの?急に』

特に理由なんてない。
ただ、なんとなく前に進みたかった。

『慶人〜。冬樹と上手くいったのか??』

「「『はいぃ?!』」」

電話越しに兄さんの隣から割り込んできたのは秋斗さんで。
俺達は3人して困惑する。
俺は核心を突かれ困惑。冬樹はなんで秋斗さんがそれを?と困惑。兄さんは俺達の関係がまさかの方に向かっていることを秋斗さんが知ってて困惑。

『え、ちょ、どういう事?!てかそう言えばなんかやたら声近くない?』

「今、慶人さんに後ろから抱きしめられ……」

「黙れ!!バカタレ!!」

「痛いっ!!!」

俺は照れから冬樹の背中を思い切り蹴飛ばし、その反動で冬樹は前につんのめる。

『え、ホントまさかなんだけどどういうこと?』

「いや、なんか色々あって昨日両想いになりました」

『ほっらぁ、オレ言っただろォ??』

「どうもありがとうございますー」

嫌味たっぷりにお礼を言うと、秋斗さんは電話越しに高らかに笑った。
そして、詳しくはまた教えろと言ってから彼はどこかに行ってしまったようだった。

『まあ、俺は応援するし、なんかあったら遠慮なく言ってくれたらいいから。冬樹のLINEにQRコード送っとくね』

「うん、ありがとう」

『また大阪に来たらゆっくりご飯でも食べよう』

「うん」

そして、兄さんが通話を切ろうとしたんだけど、冬樹がそれを止めて、大阪で日帰り観光するならどこがいい?って聞いて。
兄さんは少し悩んで、『付き合いだしたなら海遊館とかは?暗いからなにしても大丈夫だよ』と笑うから2人して赤面して、俺は兄さんに馬鹿野郎!!と罵倒した。

兄さんは笑いながらまたなと言って、LINE通話を切った。

結局、俺達は悩んで兄さんの言う通り海遊館に行く事にするのだった。


ーつづくー

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