迎合と死


「蛍、今日一緒に帰れる?」
「…ごめん、今日練習試合」

授業が終わり、部活へ向かう蛍に声をかける。そっか、と私は肩を落とす。彼は不思議そうに立ち止まった。

「珍しいね。なんかあったの」
「いや、特になんかあったわけじゃ」
「……また、視えてるの」

彼はこっそり、聞こえないように私に耳打ちする。
みえる。
私はこくりと頷いた。
近くにいるのだ、黒を纏った何かが。空気と絡み合って、嫌なにおいがする。
今はあやふやで、何なのかは分からない。久しぶりの感覚で気持ちが悪い。吐きそうだ。

「…他にいないの?帰ってくれる人」
「い、る…けど、こんなこと話せない」

私がこんな体質になったのは、中学生のとき、蛍と夏祭りへ行った時だった。だから、彼しかこのことは知らないし、他の人に打ち明ける勇気もない。

「じゃあ、僕の試合終わるまで、待っててよ」
「いいの?」
「別に。いつものことでしょ…」
「やった!今度ケーキ奢ってあげる!」

そう私が言うと、彼は優しく笑って「声が大きい」と言う。
やっぱり、蛍と話すと気持ちが和らいで、忌々しい空気を忘れられる。

「体調悪くなったらすぐ言うこと。分かった?」
「わ、わかった!」

私のお母さんみたいで、お兄ちゃんみたいで、
神様みたい。

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バレーを見るのはとても楽しかったが、学校にいた時よりも青葉城西に来てからのほうが頭痛が酷い、目眩もする、ああ、折角の蛍の試合なのにな。早く家に帰って休まなくちゃ。

試合は、後頭部にサーブを当てたり、すっごく速いボールを打ったり、面白いことは起きた。
練習試合が終わり、体育館の外で蛍を待つ。

「やっほ〜、及川さん待ちかな?」
「え、違います…」
「ヒエッ!まさかの岩ちゃん!?」
あ、この人、途中で遅刻してきたチャラ男だ。
後ろからひょっこり現れたので驚いた。
頭が痛くて、人と話す気にならない。

「おいこのクソ及川!!」
「いっっっツァ〜〜い!!!」
「ごめんね、こいつ三度の飯より女の子なんだ、可哀想だと思って許してあげて」
「は、はぁ」
面倒くさいな。大男三人に囲まれて更に空気が重いし、黒いモヤが近くなってきた感じがする。

「あの。それ僕の連れなんで、すみません」
ツッキーこと救世主様が私の手を引いて助けてくれた。安心する、はずなのに。

「あ。元気してた〜?飛雄ちゃん」

黒く、丸い頭をした彼。蛍が言っていた"王様"だ、とひと目で分かった。けれど、何か黒いものを感じた。

「〜〜っ…!!!」
「ちょ、どうしたの、?」
「おいこの子、顔真っ青だぞ」

顔が見えない。影山くんの。黒い何かは、絶対にこの人のせいだ。顔がぼやけて見える。

「か、おが………見えないの…!影山くんの、かお、が」
「え……それって、」




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