脊髄色

 覚醒と同時に襲ってきたのはひどい頭痛だった。そして、知らない風景が目に入ってくる。
(ここ、どこ……?)
あちこちにある痣や、腹部に巻かれた血の滲む包帯を見て思い出す。
炭治郎との任務中に『冨岡の女だ』と複数の鬼に囲まれて、お腹に一撃を食らったんだ。
確か、義勇さんが助けに来てくれて。その後、胡蝶さんの屋敷でお世話になっていた、はずなのに。

「目が覚めたか」
「……、どうして……」
「傷は痛むか?」

音もなく現れた義勇さんは、柔らかな声色で私の下腹部の包帯を取り、消毒を始めた。傷はかなり大きく、痛みも酷い。何より、頭痛も酷く、起き上がる気になれなかった。

「……義勇さん、ここ、どこですか」
「遠いところだ」
遠いところ。
この部屋には布団と暖炉しかなくて、小さな窓からは雪景色が見えた。

「お前は弱い」
ぽつりと、義勇さんがつぶやく。

「弱いのだから、俺に守られていればいい」
「……どういうこと、ですか」
「これからは夜をここから出す気は無い」
「な……っ、!」
 勢いで起き上がったと同時に、鋭い頭痛と腹部の痛みに襲われた。

「頭が痛いのか?…副作用があったのか。強い薬を飲ませてしまったな」
義勇さんがくれた薬を飲んでから、私は意識をなくし、ここに閉じ込められた。
すまない、と私の頭を優しく撫でる。
義勇さんが『よくやったな』って優しく撫でるのが好きだった。なのに、今は、温かさも何も感じない。

「今は休んでいろ。体調が良くなったら食事にしよう」
てきぱきと包帯をまいて、着物を直し、布団に包まれる。

「私はもう大丈夫です……仕事は……?」
「……お前のそばを離れるわけにはいかないだろう」
「私だって鬼殺隊です」
「夜はもう鬼殺隊じゃない。それに、俺も、柱でも鬼殺隊でもない」

唖然とした。私はもう鬼殺隊じゃない。
頭が痛くなる。
信じられない。あんなに、真っ直ぐで、真面目で、鬼殺隊のことに関しては厳しくて……
その瞳には、もう私のことは映ってない。

「俺だけの傍にいれば安心だろう?」

あとがき