蕩けて、溶ける

「夜、あー。」
義勇さんが口を開いて私の口にスプーンを押し当てる。絶対に開けてやるもんか、と固く唇を結んだ。

「食べないと傷が治らない。ほら」

監禁生活一日目。
彼は私に付きっきりで看病をする。義勇さんの料理は大好きだった。よく風邪をひいた時にこんな風にお粥を作ってくれたっけ。かれこれ、あーんを拒否して15分は経つ。

義勇さんはついに自分で食べ始めた。ぼーっとその様子を眺めていると、ふいに彼の手が私の顎に伸びてきた。

――油断。

「んんっ……!?」
「……、夜の負けだ」

口移しをされ、勢いで飲み込んでしまった。久しぶりに触れた唇に胸が痛くなる。『美味しいか?』って笑う義勇さんが嘘みたいに優しくて、熱いものが込み上げてくる。

「うぅ……っ、う……、」
「どうした、また傷が痛むのか?」
「ちがいます!…何を、間違えちゃったんだろうって……」
どうして。私と義勇さんは幸せだった。鬼殺隊として仕事を一緒にするうちに惹かれあって、恋仲になった。忙しかったけれど、たまに一緒にのんびりする時間が癒しだった。
私が弱いせいなのか。もっと私が義勇さんより強ければこんな事にはなっていなかったのか。

「何も間違えてない。俺たちはこれで良かったんだ」
諦めたみたいに、眉を下げて彼は微笑んだ。

「俺は少し外へ出るから、食べれそうなら食べろ。あと、水もここに置いておくから」
「……はい、」
「………すまない」
そう一言だけ告げて彼は出ていってしまった。
泣きそうな、顔をしていた。

ずるい。嫌いになりたいのに、嫌いになれないじゃないか。
彼が出ていったのを確認し、起き上がる。
今が脱出するチャンスだろう。次にいつこの機会が訪れるかわからない。綺麗に畳まれた隊服に身を包み、日輪刀も持つ。 良かった、取っておいてくれたんだ。

扉を開け外に出る。雪が降っていて、義勇さんの足跡らしきものが続いている。
私を縄で縛らないあたり、義勇さんが優しくて甘いことが分かる。裏切って、ごめんなさい。それでも私は、鬼を倒して、殺された家族の仇を討ちたい。


しかし、次の瞬間、急に眠気が来て。
私はそのまま、雪の上で眠りに落ちた。

あとがき