ワンダーワンダー


 指に怪我をしていたから絆創膏をあげた。消毒液を持っていなかったから、公園の水道で洗い流して貼ってあげた。それだけ。それだけなのに、彼はお返しに棒付きの飴をくれた。
 ヘッドフォンを首にかけた、明るい髪の学ラン姿。どこの高校なの、と聞くと風鈴だと言う。何年生なの、と聞くと二年生だと答えてくれた。今はパトロールの最中で、迷子の猫を捕まえた時に擦りむいてしまったらしい。耳触りのいい、低くて淡白な声をしている。私が話す時は、私の目をちゃんと見る男の子だ。

 もらった飴を食べようとして包みを上手くはがせないでいると、目ざとく気付いた彼は「今食べんのか」と言った。顔を上げると目が合った。まっすぐでいて静かな瞳に吸い込まれそうになる。

「うん。せっかくだし」
「貸してみろ」
「え…」
「あけてやる」
「ありが、とう」

 お言葉に甘えて飴を渡す。慣れた手付きで、ベリッとはがされた包みが彼のポケットにしまわれた。捨てとくよと慌てて申し出たけれど、返ってきたのは桃色の飴だけだった。後でまとめて捨てるから気にしなくていいらしい。

「ありがとう」

 ふわり。もう一度お礼を伝えて微笑みかける。初めて目を逸らした彼は、ぶっきらぼうに返事をしてからもう一つ飴を取り出した。また、私ではビクともしなかった包みが容易くはがされて、男の子だなあと感心する。
 飴、好きなのかな。いつも持っているのかな。全部この味なのかな。ヘッドフォン、何を聴いているんだろう。困ったな。聞きたいことがたくさんある。とりあえず名前を尋ねてみようか。

 雲が流れゆく空の下、棒付き飴を舌で転がす。ほんのり広がる桃味は、やわらかくて甘酸っぱくて、なんだか優しい。