患ってゆくしあわせ


 ことはに嫉妬するなんてみっともないとわかっている。梅くんの大切な人は、私にとっても大切だ。そうでないと彼の傍にはいられない。いる資格なんてない。ひとり占めを望むだなんて間違っている。みんなが彼を慕っているのは喜ばしいこと。彼の幸せは、みんなと笑顔で楽しくご飯を食べること。梅くんが笑っているなら、私の醜い不安なんて、瑣末なこと。

「なぁなまえ、オレに何か隠してないか?」
「どうして?」
「いやぁとくに何ってないんだけど、最近、笑顔が少ねぇんじゃねぇかなーと思ってさ」
「さすが梅くん。鋭いね」

 口角を引き上げる。最近、こうして笑うことが増えていた。笑えている自信はこれっぽっちもなかったけれど、やっぱり上手くなかったらしい。そうでなくても、普段から人を良く見ている彼の目をかいくぐるのはむずかしいだろう。
 顔を伏せる。途端、梅くんの声から軽さが消えた。何があった、と聞かれて首を横に振る。
 何もない。何もないよ。誰かに脅されているとか、学校で良くない噂が立っているとか、梅くんが想像しているようなことは何も起きていない。世界は平和だ。私の心の外側は、梅くんのおかげでいつも平和に満ちている。

「そのうち大丈夫になるから気にしないで」
「それは今しんどいってことだろ」

 ラグが映る視界の中、梅くんのあぐらをかいた脚がずいっと入り込んできて、大きな両手が私の頬をそっと包む。
 ずるいと思う。誰のことも分け隔てなく平等に彼は照らそうとする。その温かさに縋りつきたくなってしまうから、やめて欲しい。こんな至近距離のすぐそこで、心配そうに名前を呼ぶなんて。私の醜さを浮き上がらせる優しい光が、とても憎くて愛おしい。