オズに恋して


 ブランコに座ってあくびをこぼす。朝から何度目かわからない。ここのところ雨が降っていたり風が強かったりで、あまり眠れていなかった。雨戸がガタガタ騒ぐ音で目が覚めるのだ。そのくせ日中はすっかり春がやってきていて、風は優しく吹くし陽射しはやわらかい。つまり、とっても眠たくなる。

「眠そうだね」
「隼飛くん」

 顔をあげると、隼飛くんは微笑みながら片手を振った。だいぶ待たせちゃったかな、ごめんね。ううん、ぜんぜん、今来たとこ。まるで付き合いたての恋人同士みたいな会話に口元がゆるむ。実際付き合いたての恋人同士ではあるのだけれど、この関係性にはまだ慣れていない。慣れるだけの実感が湧いていないのだと思う。

「そんなところでうとうとしていたら危ないよ」
「大丈夫だよ。寝ないから」
「そ? じゃあオレは漕ごうかな」

 言うが早いか鎖が耳元でチャリ、と鳴いた。ちょっとごめんね。断りをいれた隼飛くんの右足が私の左側に、左足が私の右側におさまって、二人分の命を乗せたブランコが揺れ始める。風鈴の制服がほとんどを占める視界の向こうでは、空と地面が行ったり来たり。危ない漕ぎ方ではない。どちらかというとゆっくりで、一定の高さをこえないようにしてくれている。昔はジェットコースターと称したスリルをよく味わったものだけれど、隼飛くんはいつもどおり紳士的だった。それでも体や内蔵は懐かしい浮遊感に遊ばれる。
 こんなの小学生以来だ。隼飛くんって大人っぽいのに、こういうこともするんだな。みんなともこうして遊んでいるのだろうか。あまり想像がつかないけれど、私にだけだったらいいと思う。

「君にだけだよ」

 突然降ってきた声に息がとまった。心の中を見透かされているようで、一瞬呼吸の仕方を忘れる。息ってどうやってすうんだっけ。顔をあげると、優しく微笑む隼飛くんと目が合った。

「オレがこんな風に、突拍子もなく甘えられるのは君にだけだよ、なまえ」


 風の音と鎖の音が小さくなる。やがて失速したブランコは、私の足が何度か地面を擦ると止まった。片足ずつ降りた隼飛くんの手が鎖を伝って滑り落ち、私の手の上に着地する。目と鼻の先、なんて愛おしげに見つめるんだろう。涼やかな目元を細めて、そんな優しい表情で。お目目ぱっちりだね、と悪戯に笑う。