宵に甘い夢から目覚めて新しい夢に抱かれ蓋に手を伸ばす。棺桶を開けると人の気配。座り込み、恨みがましい目で此方を見据える双黒。そうだ、昨夜連れ帰った男。鎖を外そうと愚かにもがいたのか手足は傷だらけだ。
ブーツの硬質な足音と共に近寄り膝を付く。睨み見据える眼差しに無意識の笑みが浮かんで、耳馴染みの無い言語で不気味そうに吐き捨てる彼を眺める。昨夜見せた怯えの色はなくむしろ怒りか、或いは其れさえ恐怖心を覆い隠す為の仮面か。

既に神経毒は抜けたらしく、意志の強そうな瞳は射抜くように此方を見据える。頼りなく裸体を晒しながらも気力は衰えを見せない、餌にしては上等の気概だ。
繋がれた彼を置いて市場へ向かう。夜半にも露店は開いており、其れは大概が闇市と呼ばれるもので金銭さえつり上げれば奴隷の命さえ買える。今日の目当ては奴隷の肉では無く、滋養の付く鹿肉を。幾許かのコインと引き換えに手土産を持ち根城へと戻る。

「Poft* bun*」
上等な生肉を鼻先へ突き出し、食べるよう促すも饗する素振りはない。食欲が無いのだろうか。人間を飼育するのは久方ぶりで勝手が思い出せない。生肉よりも炙った肉を好むのだったか。鉄串に刺し暖炉へと翳す。

「Poft* bun*、Lembre-se?」
二度目の促しにて漸く通じたのか、おずおずと肉にかぶり付く。

餌が食事を終えたなら待ちに待った私の番だ。嗚呼、昨夜の甘露めいた味が忘れられない。未だ色濃く残る牙の歯型を眺めて恍惚の溜息が溢れた。食事を取ったことで体温が上がったのか、美味そうな匂いがする。油断している彼を抱き寄せて首筋へ、口付けを。




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