ロリポップよりはるかに甘い



「ちょっと、さつきちゃん。どういうことか説明してくれるんでしょうね?」
「やぁん、名前さんってばそんなに眉間にしわ寄せないでくださいよぅ。唯一の長所であるお顔が台無しですよぉ?」

甘ったるい猫撫で声を出すさつきちゃんの可愛いおでこにデコピンをしてやった。


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「実は、木吉さんが浮気してるかもって、アレ嘘なんです」

ぐるぐる思い悩んだ挙句、柄にもない行動をして土に埋れてしまいたいと願っていた私に、その言葉はあまりにも衝撃的だった。

即座に会う約束を取り付け、二日連続でランチを共にすることとなり、今に至る。

「で、さつきちゃん。軽口叩いてないで話してちょうだい」
「うぅ。でも!木吉さんが浮気してるかもって言うのは嘘ですけど、私は本当のことしか言ってませんよ」
「と、言うと?」

身を乗り出して弁解するさつきちゃんを冷ややかな目で一瞥する。でも、この子はめげない。

「年下の女の子が木吉さんを狙ってるのは本当です。まあ、大体の女性社員は木吉さんを狙ってると言ってもいいくらいなんですけど」
「…ふぅん。それで?」

私はますます機嫌が悪くなる。
自分の夫が会社で女に狙われてると知ってよく思う呑気な妻も少ないと思うけど。

「それを木吉さんが鼻の下伸ばして応対してるのも本当です。でも」

そこでさつきちゃんはとびきり可愛らしくにっこりした。

「木吉さん、何かあるとすぐ名前さんの話をするんですよ。女の子がさりげなくご飯にさそおうとオススメのお店の話をしても『ありがとう、今度うちの嫁といってみるよ』だし。まあ、名前さんと一緒に行くためのリサーチをしに後輩社員と二人で昼休みデートしてたのは、木吉さんの迂闊なところだと思うんですけど。
でも、それくらい名前さんのことが好きってことでしょう?あんまりにもベタ惚れで隙がないから、みんなもう涙目ですよ………ね、名前さん?」

途中から私は恥ずかしすぎて、顔を両手で覆っていた。
反対にさつきちゃんの声は嬉しげに弾む。

「いいなぁ、名前さんってば、愛されてるんだから」

その一撃で、私は沈没した。
白旗を上げる気持ちで、そっとハンズアップする。

「もうダメ。降参」



さつきちゃんは「たまには甘くしてあげてもいいと思うでしょう?」と笑った。だからって、人を騙すのはどうかと思うけど。


でも、まあ。たまになら、してあげてもいい、かな。

あなたにはたくさんの甘いものをもらってるから、たまにはお返しくらい、してあげるよ。