発車時刻


幼いころは、いつでもあいつと一緒にいた。学校が終われば、二人でランドセルをごとごと鳴らして走った。そういえば、俺は足が遅いあいつの手をいつも引っ張っていたんだっけ。

あの頃、俺とあいつの手は同じくらい小さくて頼りなくて。すぐ隣を見れば、いつもあのきらきらと潤む瞳と目があった。あの頃、俺らの視点はいつでも同じところにあった。

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「銀河鉄道の夜、なんて読むんだ」

彼女が首を傾げるのに合わせて、茶色い髪が犬のしっぽのように揺れた。

「もしかして、読書とか結構するほう?」
「そ、意外?」

答えながら栞もはさまずに本を閉じる。既に幾度となく読んだので問題は全くない。

「うん、すっごく意外。うちに通ってる男子は本なんて読まないのかと思った」
「読書をする男はお嫌いですか?」

おどけてきいてみれば、彼女は目を丸くしてから笑った。ちらりと覗いた犬歯が眩しい。

「いーや!惚れ直したよ」

次は俺が目を丸くする番か。

「あ、そーだ。夏祭り一緒に行くよね?」

いたって普通に話を変える彼女にこれだからこいつは、と思いつつ「…おう」と力なく言葉を返した。