小学生


小学生のころまでは、毎日のようにふたりで図書館に通った。海のむこうのおとぎ話も面白かったが、俺たちが一番好きなのは宮沢賢治の物語だった。

「堅治くんといっしょだね」
「なにが?」
「この絵本のひと、宮沢賢治っていうんだって。堅治くんと同じ名前だ」

だから私、この人のおはなしたくさん読んでたら、好きになっちゃった。
銀河を描いた絵本を胸にぎゅっと抱きしめて言った幼馴染を見て、急に心拍数も体温もあがって、そんなのはじめてだから動揺してしまって、俯いた。

「俺も、好きだよ。そいつ」

必死に平静を装って出した声は少し上ずっていたかもしれない。
「堅治くんも好きなんだ、私といっしょだね」と嬉しそうに笑った顔を直視出来なかった。


小学生でも5年になれば、否が応でも性別のちがいを意識するようになる。
徐々にあいつは背が伸びて、身体もどんどん女っぽくなっていった。同級生のなかでも成長のはやかったあいつは、いろいろと注目されるようになった。男子のなかには少なからず恋心を抱いているやつも居たようで、そんなやつらの羨望と嫉妬と好奇心に俺たちは随分と困らされた。
あいつの手を引いて走ることはなくなった。手に触れることはおろか、言葉を交わすこともなくなった。
それでも、放課後に図書館へ行くことだけはやめなかった。ふたりでそこでそれぞれ本を読んだり、宿題をしたりして気ままに過ごした。夕方になって夕暮れの橙色に藍色が混ざりはじめたら、ふたりで帰った。その時間だけは、むかしの幼馴染でいられた。