中学生


それからさらに時が過ぎ、中学生になった。
月日を重ねるごとに、じわじわと俺たちの距離は開いていった。
入学式の日に、今まで名前呼びをしていた幼馴染を、はじめて名字で呼んだ。
一度呼んだだけでは気づかれなかった。二、三度呼んで、ようやく振り返ったそのとき目があった。その数秒だけであいつは全てを理解したのだろう。まばたきの間、ひどく傷ついた顔をしたあいつは次の瞬間には微笑んでいた。

「…なにか、私に用かな。二口くん」

自分でもあまりにも理不尽だと思った。二口くん、そう呼ばれると胸がひりひりと痛む。
自分勝手なやつだよな、俺。
ホント、どうしようもないよ。


中学生になって、バレーをはじめた。あるときを境に俺はぐんぐんと背が伸びはじめ、筋肉も満遍なく身体についてきた。
部活があるので図書館通いもしなくなり、本格的にあいつと接触する機会はなくなった。今では、俺に幼馴染がいるということを認識しているやつの方が少ないだろう。

顔もまあまあ。頭も悪くなく、高身長で運動も出来た俺は女子にモテるようになった。別に断る理由もないし、と好みの顔の女子とは付き合ってみたりしたけども、大抵は愛想を尽かされて終わった。別に俺としても相手に恋情があったわけではないのでダメージはない。

反対に、廊下でたまにすれ違うあいつは、どんどんと小さくなっていくような気がした。実際には俺が大きくなっていたわけだけど、ぼんやりそう感じていた。
常に彼女は三ヶ月ローテーション状態の俺とは違って、あいつは色恋沙汰とは無縁だった。相変わらず男子の羨望の的ではあったが、暇さえあれば読書、という本の虫なあいつはどこか近寄りがたいらしく、告白まで踏み込むものはそういなかったらしい。


そうして俺は工業、あいつは進学校と、別々の選択をして、はじめて俺たちは違う学校に通うことになった。


もう廊下を歩くとき、お前の姿を探すこともないんだな。
お前の教室を通り過ぎるとき、さりげなさを装ってなかを伺うこともなくなるんだな。
もう、窓際の席に座って本を読むお前の姿を見ることもなくなるんだな。



卒業式の日は学ランだけでなく、シャツのボタンまでなくなった。ちょうだいという声にハイハイと適当に答えていたら気がついたときにはスッカスカだった。
「二口くん、第二ボタンは誰にあげたの?!」と詰め寄ってきた女子を「別にお前の知ったことじゃないだろ」と一蹴した。
その帰りに、通学路の途中にある川にへ、制服のポケットに入れていた第二ボタンを投げ捨てた。
どうしても、これだけはそこらへんの女にやりたくはなかった。これをやってもいいと思えるのは、ただ一人いる俺の幼馴染だけだ。そいつがこれを望まなかったのなら、もう用はない。



なあ、お前。どう思うよ。
俺たち、ただ男と女ってだけで、随分遠くなっちゃったよな。
カムパネルラとジョバンニは、一緒に銀河の旅をしてむかしのふたりに戻っていたけど、俺たちもいつかはまたむかしみたいになれるのかな。
なあ、どうだろうな?