Because,I love you.



「私は好きだよ。背がすっごく高いところも、手がおっきいところも」

他の人よりおっきいぶん、たくさんの人を救えるような気がするから。

大は小を兼ねるんだよ、といたずらっぽく笑いかけられて、目眩がした。

目があったとき、話しかけられたとき、笑顔を向けられたとき。
俺の心臓がどんなに高鳴っていたか。

何度、「好きだ」という一言を口走りそうになったか。

きっと、お前は気づいていないだろう。
でも、今はまだそれでもいいと思ってたんだ。





リコのことを名前で呼ぶことにしたのは、これから仲間になるからというのが主な理由だけど、だからと言って少しの好奇心がなかったわけでもない。

人生のだいたい三分の二を、名前と同じ学び舎で過ごしてきた。
あまりにも慣れてしまった「名字」という呼び方を今更変えるのには、やはりきっかけというものが必要で。
それを作るためにも、リコを名前で呼ぶことにした。


「リコ」

そう呼んで、部活の話を少しする。
はじめて名前の前でそう呼んだとき、こっそり横目で確認しても、別段変わった様子も、「名前呼びなんだ?」とたずねられることもなかった。

少し落胆して、それでも少し安堵する自分が居たことは紛れもない事実だった。

時は流れ、俺達は高校二年生になった。
名前と出会ってはや11年。
まだ俺達の関係は変わらないまま。

変わったのは、多分俺の気持ちだけだ。




そう思っていたのは、俺も名前も同じだったんだろうな。


「ねえ、鉄平。恋は先手必勝って誰かが言ってたんだけど、私もやっぱり告白は早くする方がいいと思うんだ」
「どうしたんだ、急に」

茜色に染まった小道を歩きながら、名前は芝居がかった溜息を吐いた。

だって、と言って踊るように先を歩いてから振り返って俺を見る。不満気に少し膨らんだほっぺたが可愛い。

「私たち、中学生の時から約三年間、両片思いを続けてたんだよ?もっと早くに言ってれば、もっといろんなことが出来たかもしれないじゃない」
「うーん、確かにそういう考えもあるかもしれない。けど、俺はこれで良かったと思うぞ」
「なんで?」

また『なんで』、か。
俺が足を踏み出せば、一気に名前との距離は縮まってもう間には5cmもない。彼女がスキップした三歩は俺の一歩で足りてしまう。
名前は突然近くなった距離にたじろいだが、俺を見上げる瞳はあくまで挑戦的だった。
いいさ、そんなに知りたいなら教えてあげよう。

「確かに時間は有限だ。失われた時は巻き戻せない。でも、あのもどかしい時間があったからこそ、今こうして過ごせることが本当に嬉しく思える。それに」
「それに?」

名前の頬に手を添える。うろうろと視線が彷徨い、一瞬伏せてからまた強気に見つめる。でも、顔の赤らみまでは隠せないみたいだ。
本当に、一瞬でも目を離したくないと思うほどに愛しい。

「時間は有限だが、その限りある時間を精一杯過ごせばいいだろ。これから先の時間を俺は名前と過ごしたいと思っているから、過ぎてしまった時間を後悔している暇はない」

そうだろう?と笑いかければ、名前は慌てて俺の胸を押した。
少し俺が怯んだ隙に、脱兎の如く駆け出していた。

追いかけて走れば、すぐに捕まえられる。後ろからぎゅっと抱きしめた。
名前はすっかり息が上がってしまっていた。

「……っはぁ、鉄平のばかっ!恥ずかしいっ」「ずっと一緒に居たいって言ってるんだぞ。嬉しくないのか?」

そう耳元で囁くと、消え入りそうなほどのか細い声で、小さく答えた。

「嬉しいに決まってる。いちばん欲しかった答えなんだもん」

こうして、最後にはいつも素直になってくれるから、また好きで堪らなくなるんだ。

さて、林檎みたいにまっかになってしまった彼女を、これからどうしてあげようか。